「そう言えば俺、なんで生きてんだ・・・・・?」
「・・・・は?」
スライムをミラクルグミだと言った後、ふと気付いたようにルークが呟いた言葉。
それはかつて俺も発した事のあるものと同じ台詞だった。
ア・ロング・ロング・デイ -壱-
話を聞いてみれば、やはりルークは異世界の人間だった。
あー、いや、本人によれば『人間』なのではなく『レプリカ』なのらしい。
『人間』の情報を取り出し、複製してつくられた存在が『レプリカ』。
要は『クローン』だな。
だけど世界が変われば常識が変わる。
『レプリカ』は『死ぬ』のではなく『乖離』して『消える』らしく、ルークもまた乖離しているときに意識が途切れたのが最後の記憶なのだとか。
体を構成している分子は『音素』、その『音素』の結合が緩む、もしくはなくなるのが『音素乖離』。
死体は残らない、なんとも嫌な終わり方。
「俺はあのとき確かに消えたはずなのに・・・・」
「まぁ、死んだはずなのに生きてるってのは俺も体験したことあるから、儲け物だと思って残りの人生楽しんで生きろよ」
「楽しむなんて、無理だっ!俺はっ、俺はつぐわなきゃいけないんだ・・・・!」
・・・・・・・・・・あー、なんかネガティブ。
「償うも償わないも、相手がいないんじゃ仕方ないと思わないか?」
「相手が・・・・いない?」
「そ。ほらこいつ見ろよ」
そう言って示したのは、オレの膝の上に移動していつの間にか眠っていたスライム。
「こいつはスライムって言ってな、この世界じゃ割とよく見られるモンスターなんだが、知ってるか?」
「スライム・・・・ってか、この世界って・・・・」
「ルークがいた世界、星って言ったほうがいいか?とりあえずそこじゃない。全く違う摂理と常識で構成された、文化も文明も異なる世界」
「違う世界・・・・・?」
「俺もまだこの世界に来たばかりだから詳しくは知らんが、まず間違いなく知らない世界だろうな」
「え、ちょ、ちょっと待ってくれ、は?あんたも?」
「ああ、俺もついさっきまで違う世界にいた。気付いたらこの世界に来ていて、その少し後にルークが現れた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・駄目だ、頭がこんがらがってきた」
そう言って頭を抱え蹲るルーク。
まぁ、最初は誰でもそうだよな。
俺も最初FF7の世界にいた時は、それが現実だと認めるまで長い事かかったし。
「・・・・・あれ?あんたそのスライムってモンスターのこと知ってるってことは、この世界?について詳しいんじゃねーの?」
「あー、実は俺が最初にいた世界にはいろんな世界が書物やらなんやらに乗っていてな、大まかな事ならある程度は分かるんだ」
「えーと、よく分かんねーんだけど・・・・」
なんと説明したらいいのやら・・・・・
「そうだな・・・・・、ルークは小さいときに絵本を読んだことはあるか?」
「は?い、いきなりなんだよ・・・・」
「まあいいから」
「・・・・・あるけどよ」
「じゃあその中に『現実』には存在しない生き物が出てきたりしなかったか?たとえば天使とか悪魔とか…」
「・・・・・・・出てきた」
「オレの持ってる知識は、大雑把に言ってしまえばそんな感じだ」
「・・・・・・・・・・・・本の中に出てきたのか?」
「そ。俺のいた世界にはスライムはいなかった。けれど今『ここ』に存在する。俺が言ってる事理解できたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・なんとか」
よし、なんとか説明できた。
「ん?」
「どうかしたか?」
「さっき最初の世界とか言ってたけど・・・・・は世界を何度か移動したことあるのか」
「おっ、よく気付いたな。そうだ、俺がこうして『知ってるけど知らない世界』に移動するのは3回目なんだ」
「っじゃあ、他の世界に行く方法も知ってるのか!?」
「いや、まったく。」
おそらくは元いた世界に戻りたいがため出た言葉だろうね。
俺のあっさりした返答に、一瞬固まって、すぐさま深く深く項垂れたルークに苦笑。
「・・・・・最初は目を閉じて、開けた瞬間。次は(おそらく)命を落とした瞬間。そして今回は、町角を曲がった瞬間、ここだ」
「・・・・・・・・・・・・なんてーか・・・・・はらんばんじょー?」
「・・・・・・・そうだな」
波乱万丈、な。
今絶対、ちゃんと言えてなかった。
「まー、そんなわけで、ほぼ間違いなくこの世界はルークの世界でも俺がいたどの世界でもないわけだ。だから、」
いったんそこで区切り、落ち込んだ様子のルークの頭にぽんっと手を置いた。
「ルークが過去に何を抱えてるかは知らないけど、ここじゃそんなこと誰も知らない。誰も興味ない。誰も求めない。」
「でもっ!」
「でもじゃねぇ。お前一度死んだんなら、それでそれまでのお前は終わりだ。今ここからは、新しいお前しかいない。ずるずるずるずる引きずっちまったら、引きずられた者も引きずってるお前も両方苦しいじゃねぇか」
「・・・・・・・・・・・っ」
「・・・・・・・・とか何とか俺が言ったところで、結局決めるのは本人なんだけどな」
これはあくまでも俺の考えで、ルークの考えじゃない。
俺はもう割とあっさり割りきる事が出来るけど、それはやっぱり年の功ってやつなのかもしれないし。
「とにもかくにも、これから先何年になるかわかんね―けど、オレ達はこの世界の住人になったんだ。色々あるのならその間に考えをまとめればいいさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「やらなきゃいけねーことはない、しがらみもない。時間はたっぷりある。お前がこの世界に慣れるまでは俺が手伝ってやる」
ルークって、見るからに不器用そうだからな。
「頑張らなくてもいい、気楽に行こうぜ」
「・・・・・・・・・っ!!」
ぽん、と丁度いい位置にある頭に手を置き、がしがしと強めに撫でてみた。
気が沈んでる子供とか、結構こうすると喜ぶんだよな。
だからやってみたんだけど・・・・・・・あん?
なんかルーク、震えてねぇ?
え、力強すぎた?
「・・・・ルーク?」
「・・・・・・・ご、ごめん・・・・俺・・・・っ・・・」
「・・・・・・・・・」
心配になって覗きこんだら、顔を真っ赤にして涙目なルーク。
その表情は怒っているようでも、力が強すぎて苦痛に歪んでいるでもなく、むしろ今にも泣きそうで・・・・・・・・・
(あー・・・・・よく分からねぇけど、もしかしてこいつ・・・・・・・)
「よく頑張ったな」
「・・・・・・・・・え?」
「お前はお前が消えるまで頑張ったんだろ?だから、偉い偉い」
ニッと笑いながら、またぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
頑張った子供は褒める。
多分、ルークはそんな当たり前がなかったんじゃないかと、何故か思った。
あと頭を撫でられるとかのスキンシップもあんま経験なさそう。
本当は10代後半っぽいのに、どうにも雰囲気がもっと幼く感じるし。
放っておけないんだよなぁ、なんとなく。
「これからよろしくな、ルーク」
「・・・・・・・・・・・・・・・うんっ」