「お前もういっぺん言ってみろ!ぶっ飛ばしてやるからな!!」 激昂する麦わらの兄ちゃんは、ルフィ。 「やめろルフィ!ジョニーにゃ関係ねェだろ!!?」 そのルフィを諌めようとしてる緑頭が、ゾロ。 んで、長鼻の兄ちゃんが死んだと告げたサングラスの兄ちゃんが、ジョニー、と。 あと名前知らないのは金髪の兄ちゃんと、額当てをしてる兄ちゃんの二人。 顔を知らないのは、ナミって女の人。 とりあえずこの人たちは何らかの目的を持って集まった集団ってのは分かった。 でもその何らか、が何なのかはわからない。 「ナミがウソップを殺すわけねェだろうが!!俺たちは仲間だぞ!!!」 「信じたくなきゃそうすればいいさ・・・!!でも、おれはこの目で・・・・!!」 「誰が仲間だって?ルフィ」 大人しく金髪の兄ちゃんのそばで事の成り行きを見守っていれば、オレンジ色の髪をした姉ちゃんがやってきた。 「ナミ・・・・」 ふむ、この姉ちゃんが件の『ナミ』か。 「何しに来たの?」 「何言ってんだ、お前はおれの仲間だろ。迎えに来た!」 「大迷惑」 (・・・・・・・・・・・あ、また血のにおい。) くん、と嗅覚に神経を集中させ探ってみれば、その出所はナミの左手。 (あの手袋、傷を隠してるな) 「仲間?笑わせないで。くだらない助け合いの集まりでしょ?」 「!」 「ナ!ナミさ〜〜〜〜ん!おれだよ覚えてる!?一緒に航海しようぜ!!」 ついさっきまで普通だったのに、唐突に態度が変わったのは金髪の兄ちゃん。 ミーハーな女子みたいに頬を高潮させ手を振る姿は、直前までのクールさがものの見事に掻っ消されてる。 しかも、微妙にシリアスな空気だったのが崩されたし。 「てめェひっこんでろ!!話がややこしくなんだろうが!!」 「アンだとコラ!恋はいつもハリケーンなんだよ!!」 ・・・・・・・・・・・恋なんだ。 慌しく展開する現実 俺を余所に進んでいく会話。 険悪な様子だけど、どうにも違和感を感じてナミって人を注視していれば、なんとなく焦っているような・・・? 「まだ分かんないの!?私があんた達に近づいたのはお金のためよ!今の一文無しのあんた達なんかには何の魅力もないわ!!」 言葉だけを聴けば酷い台詞。 でも、その言葉の端々から読み取れる感情は―――悲しみ? 心理戦はあんまり得意じゃないからはっきり分からないけど、どうもナミの言葉は本音に聞こえない。 「さっさと出て行け!目障りなのよ!!」 魚人が支配してるところをそんなあっさり出て行けるものなのかな? 何度か見た魚人の様子から、海の上はソレこそ連中のテリトリー。 生半可な覚悟で海へ出れば、相当な被害は確実だ。 ・・・・・・・・・・まぁ、隙を突けば出来なくもないだろうけど。 (だけど今の俺は全力を出すにはいささか無理がある) 傷の表面は塞がっているけど、内側は微妙な現状。 下手して傷が開けば元も子もない。 (やっぱり最善は魚人をどうにかすることだな) 戦場が陸地か海上かの違い。 なら少しでも勝率の高い陸地を選ぶが定石だ。 しかも、 (この連中の様子から、うまくいけば手が増える可能性が高い) 話し合いは決裂したらしく、怒気も露に去っていくナミの後姿。 そして、彼女に言われたとおりに出て行く気配がない、ほかの連中。 (てか何でルフィは道のど真ん中で寝てるんだ・・・・・・・・・・?) 「あんた達おかしいぞ!あの 「おれ達ぁ、アーロンに狙われてるんだ!何の理由があってここに居座るんだ!あっしもジョニーの言葉を信じる!!」 「短ェ付き添いだったが、おれ達の案内役はここまでだ。みすみすアーロンに殺されたくねェしな!!」 (あれ、この二人はルフィたちの仲間じゃないんだ) 案内役ってのは何の案内役か分からないけど、まぁ、今はいっか。 興味が若干沸いたけど、優先順位は低い。 だから特に何かを言うこともなく、見送ってしばらく。 ・・・・・・・・・なんてーか、俺のことすっかり忘れ去ったような雰囲気。 や、いつもの癖で気配消してたのがいけないって分かってるんだけどね。 とりあえず、寝てるルフィはともかく金髪の兄ちゃんとゾロに話しかけてみよう。 「・・・・・・・・ねぇ、あんたらさ」 「うおっ、って、なんだあんた、まだいたのか」 「まぁね。ところでさ、あんたらって何の集まり?」 「「は?」」 「航海士を強引に勧誘してることまでは見てて分かったけど、それであんた達はなんの集まりなんだ?旅芸人とか?」 「「はぁ!?」」 まぁ、見た感じは明らかに違うけど。 てか、戦闘力が結構あるように感じるから賞金稼ぎのグループとか? それともこの世界独特の職業かな? いったいなんだろうと少し期待しながら答えを待っていたら、数秒二人して顔を見合わせ、俺に向きなおり一言。 「海賊だ」 俺にしては珍しく、数秒頭が真っ白になってしまった。 そして返した言葉は、感じたものそのままの言葉。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見えないな」 俺の知る海賊とは、海沿いの村や町が被害にあう極悪非道のソレ。 けれど目の前にいる人たちからは、そんな外道の『におい』はまったくしない。 それはつまり、俺の知る『海賊』と、この世界の『海賊』の定義には違いがあるのだという仮定。 なので真偽を探るべくそれとなく聞いてみれば、得た答えはまた微妙なもの。 確かに俺の想像する『海賊』は存在しているらしい。 ていうか、このあたり一帯を根城にしているアーロン一味が、まさにソレなのだとか。 で、船で空をぶっ飛ぶ彼らはというと、それぞれの夢を叶えるため海に出たタイプの『海賊』なんだって。 ・・・・・・・・・・・・・・・・正直、『海賊』である理由が分からない。 だけどそこを突っ込んだらなんだかいけない気がした。 なんでだろう・・・・・・・・・・・・・・・・・? 「それであんた、なんでんなこと聞くんだ?」 「ああ、先ほどの会話であんた達が船を持ってるって知ってな、俺の乗っていた小船じゃぁ次の島まで難しいから乗せてもらえたらと思ったんだが・・・・・・・・・・海賊じゃ、無理そうだな」 「あー・・・・まぁ、たぶん大丈夫だと思うが、とりあえず船長に掛け合ってみてくれ」 「船長?」 「そこで寝てるやつが船長だ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 たった一日でこれだけ色々あればもう、よっぽどの事柄以外心を乱せはしまい。 「・・・・・・・・・・・・・・苦労しそうだな」 一瞬停止しかけた思考を即効で回復させ、どうにか紡いだ言葉はどことなく哀れみを含んでいるようないないような・・・・・・。 とりあえず、まだ出会ってわずかとはいえ、破天荒な性格が読み取れたルフィが船長なんて、船員が苦労とイコールで結ばれるのは安易に想像できる。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 そして返ってきた無言で「やっぱりな」と思ったり。 |