ナミと共に魚人の巣へ辿り着いた瞬間、俺は気配を薄め、入口付近に集まった村人の中に溶け込むことにした。


 変化の術で容姿を平凡なものにし、気配も薄く、さも初めからここにいましたと言わんばかりに人ごみに紛れる。

 忍の基礎の基礎。


 理由は単純に、奇襲と現状の確認のため。

 ナミが到着早々アーロンに突っかかりそうだったから、この場の全員の注目はナミに向かう。

 それはイコール、俺という存在を隠しやすい状況ってわけ。


 そして案の定、争いの場の注目はナミとアーロンの両名へ。


 一応意識の2割はそっちへ。

 なんかアーロンがナミに対しての取引という名の脅しをしてるけど、先ほどまでの彼女の様子ならどう答えるかは容易く想像がつく。

 だから残りの意識を現状把握に向けたのだけど・・・・・



(ゾロとサンジはやられてるし、ルフィとウソップは行方不明・・・・・?)



 どうなってるんだか。

 もしかして殺られた?


 でもあんな勢いよく飛び出して、彼らのリーダーらしきルフィがそう簡単にやられるとは思えないのだけど・・・・。


(・・・・・・このまま魚人と敵対するのは流石に無謀か・・・・・・?)


 彼らを見捨てるべきか、これから先何らかの逆転劇があると想定して手を出すか。

 困った。


 ルフィのほうに勝率があると思っていたのに、誤算だったか・・・・・・


「・・・・・・・・・・・」


 ・・・・・・・・・誤算?


(・・・・・・・・なんで俺、ルフィに対して信頼を向けてるの・・・・・?)


 血の気が引いた。

 ざぁぁっと、嵐の前の浜辺のように、すごい速さで血の気が引いた。


(俺が、産まれたときから忍として育ってきた俺が、会って間もない人間に、信頼・・・・・・・?)


 何故。

 どうして。


 冷静に、冷静にと自分に言い聞かせ、俺の中のルフィに対する認識を客観的に見てみるけど、


(・・・・・・・・・・・・・・・・なんか、絶対にルフィがどうにかして勝つって思ってる俺がいるんだけど・・・・・どういうわけ?)


 分からない。

 自分が分からない。



「ごめん、みんな!私と一緒に、死んで!!」

「!」



 いけない、今は俺のことを考えるときじゃない。

 一旦思考に蓋をかぶせ、現状を確認。


「「「「「「「「「「ぃよしきたぁ!!!」」」」」」」」」」

「なるほど、全員ブチ殺し希望か・・・・・・」


 言葉のやりとりから、ナミが魚人たちと袂を分かったのだと判断。

 と同時に、アーロンから静かな殺気が。


(・・・・行くか・・・っ!?)


 飛び出そうと身をかがめた、その瞬間、



ブゥーーーーーッ・・・っっぱァ!!!!!


 ・・・・・・・・・・・・噴水?

 なんか突然、海側の壁の向こうから、水が立ち昇った。







無意識の信頼ほど怖いものはない









 よくわかんないけど、今の噴水がルフィだと、何故か思った。

 それは想定だったけど、サンジの言葉で確信。


「きたか!後は足枷をはずすだけだ!」


 瞬時に変化を解き、再び変えた姿は先ほどまでとっていた、10代後半の俺。

 たん、と地面を強く蹴り飛び上がり、取り出した手裏剣を3つアーロンめがけ、放つ。

 と、同時に起爆札(一定時間が経つと爆発する札)をクナイにつけ、アーロンが手裏剣を避けた後移動する場所目掛け、投げる。


「「「なっ・・・!!」」」


「傷が悪化するような激しい運動・行動は控えろって、俺言ったよね、ゾロ?」


 案の定避けられた手裏剣。

 だけど次の手までは想定していなかったみたいで、ものの見事に起爆札の爆発に巻き込まれるアーロン。


(・・・・・・・・ダメージゼロ、ね。まぁ、想定内だ)


「・・・・・なんだ、てめぇは・・・!」


 怒りが堪えられない、といった様子のアーロンに、俺の挑発行動がうまくいったとほくそ笑む。


「只の通りすがりの助っ人。ねぇ魚人、俺とちょっと手合わせ願えない?」

「今日はずいぶんと、命知らずの馬鹿が多いようだな・・・・」

「命知らずかどうかは知らないけど、あんたの支配が今日限りだってのは、知ってるよ」


 にこりと無害そうな笑みを表面に張り付けそう言ってやれば、面白いように引っかかってくれる。


「減らず口を・・・・」


 アーロンがそう言い終わる前に、背後へ跳躍。

 手に持ったクナイを背後から心臓の位置をめがけ振り抜くが、寸前で交わされ腕を掴まれた。

 そして凄まじい勢いで俺の顔面めがけアーロンの拳が迫る・・・・・・・・・が、


「残念」

「っ!?!」


 ぼふん、と音を立て消えた俺に戸惑うアーロン。

 ただの変わり身の術だけど、忍の術を知らない相手にはかなり有効と見た。

 出来た隙を逃すはずもなく、躊躇うことなくチャクラを込めた自身の拳をアーロンの頭上から・・・・打ち落とす!




どごぉっっっ



桜花衝おうかしょう、まともに食らうとキツイよね」



 身の内で練り上げたチャクラを一瞬で拳へ集め、ヒットした瞬間拳を伝い対象の隅々に衝撃が行きわたる、凶悪なインパクト。

 地面へ向けて放てば地割れが起き、無力な人間に放てば死を与える。


 いくら頑丈な魚人といえど、この一撃は相当なダメージのはず。


 現に地面に深く埋もれたアーロンは、ピクリとも動かない。



「なん・・・・・っつー、馬鹿力・・・・・」



 聞こえた声に顔を上げれば、茫然とこっちを凝視してくる・・・・・・・・・この場の全員。



「・・・・・・・・・サンジ。あんた、何かするんじゃなかったのか?」

「え、あ、ああっ」

「早く行きなよ。今のはそう(チャクラの総量の問題で)乱発できない。それなりにダメージを与えられたとは思うけど、感触からして決定打じゃない」



 だから、早く行けと視線で促せば、どういう事だか海へ飛び込んだ。

 え、ちょっと、入水自殺?


 なんて呆けていれば、足下から気配。


 とっさに飛びのけば、今までいたところに振り下ろされたアーロンの拳。


、加勢するぜ!!」

「・・・・・・・っの、」


 避けてすぐ構えたクナイを、阿呆な発言かましたゾロへとターゲットを変え、投擲。


「っ鳥頭!」

「ぬぉっ!?」


 本気じゃないよ。

 ただ、ちょっと仕置きの意味だから、本気じゃないよ。


 変わった流派なのか刀を口にくわえ、両手にも一本ずつ持った変なスタイルのゾロは、あっさり俺の投げたクナイをかわす。


「何しやがる!お前どっちの味方だ!」

「怪我人が無駄に怪我を増やすなってさっき言った!もう忘れたのか鳥頭!」


「てめぇら・・・・随分余裕そうじゃねぇか・・・・・っ!」


 口の中を切ったのかだらだらと血を垂れ流し、怒り心頭といった様子でふらふらと立ちあがるアーロン。


(今度はしっかりダメージを与えられたか。でも、普通の忍なら頭蓋骨陥没、手練れの忍なら失神。やっぱり魚人の頑丈さは要注意だな)


 でも少し前に片づけた下っ端はそうでもなかったから、魚人のなかでもアーロンはより頑丈なタイプなのかもしれない。

 とにもかくにも要注意の相手という事は間違いない。


「“卵星”っ!!!」


 さてどう相手してやろうかと再びクナイを構えたその瞬間、どういうわけか卵が飛来しアーロンへ直撃。

 ・・・・・・まぁすぐさま反応したアーロンが手でガードしたけど、それに何らかの仕掛けがしてない様子の卵はさほど脅威でも何でもない。


 精神的にダメージあるかもしれないけど、ね。


「援護するぞ、ゾロ、!」

「ウソップの兄貴!?勇ましい!!」

「無事なのか!どこだ・・・・!?なんて堂々とした登場っ!!」


 声から察してはいたけど、なんて中途半端な援護だろうと声のするほうへ視線を向ければ・・・・


「存分に戦え!!!」

「「「「「そこかぁっ!!!」」」」」


 声は堂々としてるのに、当の本人がいるのは壁に空いた穴の向こう。

 遠い。


 ていうかこの世界の人たちって、なんでこうもボケとツッコミがはっきりしてるんだろ・・・・。

 普通そんな声揃わないって。


「聞けナミ!おれ様が幹部を一人、幹部を一人、幹部を一人仕留めたぜ!」


 へぇ。


「コックの兄貴だ!海中で何が起きてんのか知らねェが、コックの兄貴の行動が“鍵”なんだ!!」

「ゾロの兄貴!えーっと、の兄貴!フンバレーーーーっ!!」


 普通、そういう“鍵”のことはペラっと口にしていい事じゃないと思うのは、俺だけ?


「悪魔の実の能力者は海中じゃあその能力はもちろん、もがく力すら海に奪われ死ぬはずだ。そいつがまだ生きてるとすりゃあ、誰かがこの戦いゲームに水を差してるってことになる!!」


 ・・・・・・・・・・・・・悪魔の実ってなに。

 やっぱり違う世界ってのは違う知識が溢れてるのか…。

 さっき調べた事だけでこの世界を知った気になったわけじゃないけれど、こうも知らない事が溢れてると不安になる。


 しかし悪魔の実の能力者とやらは海が弱点なのか。

 よくわからないけど、ルフィはその能力者とやらで、現在海に沈められてるけれどどうにか命が繋がってる、ってことか。

 で、さっきサンジが海に飛び込んだのはそのルフィを確かめる為・・・・・・・・・。


 色々疑問は残っているけど、それだけ分かっているのなら今のところ十分だ。


「・・・・・・ゾロ、増血丸だ」

「おう」

「本音を言うならこのまま下がってほしいんだかけど、あんた聞かないんだろうね」

「ふっ、分かってんじゃねーか」

「はぁ・・・・・」


 がりっと音を立て俺が投げ渡した増血丸を噛み砕くゾロは、やる気満々のようで剣を両手と口に構え直しアーロンに向き直る。

 俺もそれに倣うようにクナイを構えようとしたが、ふと感じた気配に視線を俺の背後に。


「・・・・・・・・タコか」


 傷だらけの体をどうにか起き上がらせようと奮闘する、6本腕の魚人。

 あれだけ腕があれば印を結びながら色々できて戦闘に有利そうだなと思いつつ、下手に邪魔をされては面倒だと瞬身の術を使いタコの背後へと回り込み首裏に手刀を一発。


「うぐっ!?」

「邪魔は許さないよ」


 本当はクナイで心臓一突きで片づけてしまえれば楽だったんだけど、魚人の心臓が人間と同じ位置にあるとは限らない。

 その他血管等の位置も同じで、ただ間違いなく同じ位置っぽいのが脳みそ。

 ならばと手刀を首の裏に入れてみたんだけど、うん、効いたみたいでよかった。


 ・・・・・・・あ、ちなみに少し前に殺して片づけた魚人はね、細切れにしたんだ。

 だから弱点も何も確認してなかったし、今ここでタコの魚人を同じにするとさ、その、ナミ達村人が引くかなって・・・・・・・。

 だってあれ、一般人からしてみたらトラウマものだし。


 うん、だから俺のこの行動は間違いなかったってことで。



「さて、邪魔者もいなくなったし、後はあんただけだよアーロン」

「貴様・・・・生きてかえられると思うなよ・・・・・・・・・」

「あはっ、悪役の台詞!」



 笑顔で挑発してみたら、今までのこともあってかすんなり乗ってくれるアーロン。



「まずは貴様から殺してくれるっ!!」

「できるもんならねっ」



 よしこれでアーロンの意識は俺に向いた。

 こちらに向かってくるアーロンの背後、刀を構えたゾロがようやく気付いたようで焦ってるけど、もう遅い。



(怪我人は大人しくしてろってんだ)



 そう内心で呟いたと同時に、俺はアーロンの攻撃をひらりと交わした。


 さぁ、戦闘スタートだ。












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