世間一般ではオタク、妹によれば腐女子。
妹はなにをどう間違ったのか、気が付けば遠い世界に入り浸りになっていた。
しかもタチが悪いことに表面上は成績優秀、品行方正な優等生を演じてるもんだから、俺以外誰も気付かない。
・・・・・・・・・イヤ、俺もおそらくはあの現場を見なければ気付けなかっただろう・・・・・・・・
なにせ・・・・・・・・・・・・・・ノックを忘れ開いた扉の向こう絡み合ってる(つまりセッ○ス)男同士の漫画にペン入れしていたのだから・・・・・・・・・
しかも俺が呆然として手に持ったCD(返そうとしてた)を落とすまで、妹は気付きもしなかった・・・・・・。
でもなにが恐ろしいって、その後だ。
呆然とする俺がなにを見たのか瞬時に悟った妹は、ぐわっと顔を原稿から俺に移し驚くべき早さで接近したかと思うと胸元をひっつかみ、
『あらお兄ちゃん丁度良いところにv 今モデルが欲しいなぁって思っててぇ・・・・・・・・・手伝ってくれるわよね?』
気が付けば俺は半裸で妹のベッドに横たわっていた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ちなみに妹はよだれを垂らさんばかりのギラギラした目で横たわる俺をスケッチしてました。
それ以来俺は妹の本性を見たからと言って色々付き合わされました。
イベントとやらで初めてコスプレを体験しました。
そこでできたファンとやらに初めてストーキングされました。
正直俺は妹が苦手になりました。
現在進行形で、苦手です。
人権ってどこに売ってあるのでしょうか
最初見せられたときは妹の陰謀かと思いました。
「Tales of The Abyss?」
「そ!このルークって主人公、お兄ちゃんそっくりだよね!」
髪の色とか目の色は違うけどーと続ける妹を横に、俺は渡された雑誌を凝視。
書かれた主人公説明の所を読んでみると、
【キムラスカ王国の公爵家の一人息子。何不自由なく育ったためワガママで世間知らず。幼い頃敵国に誘拐されショックでその頃の記憶を失っている。唯一の趣味は剣の修行】
と書かれている。
え?最近のゲームの主人公って随分地味に偉いんだな。
ってのが感想。
でもやっぱり気になるのは、添えられたイラスト。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
イラストだってのに、まるで写真を見たかのような衝撃。
さっき妹が言ったように髪と目の色は違う。
俺は典型的な日本人だから、髪も目も茶色がかった黒。
でも、それを抜かしても似ているのだ。
イラストなのに。
このルークというキャラクターが、俺と瓜二つなんだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ
とてつもなく不穏な空気を感じ振り返れば、妹が凄く歪んだ笑みを浮かべている。
「・・・・・・・・・・・・・・偶然とはいえ流石お兄ちゃん。これで次のイベントもいただきだわ・・・vvv」
ぅわぁ・・・・・・・・・聞かなきゃよかった。
で、それから数ヶ月後。
上記のゲームが発売されてからというもの、俺はもうどこぞのアイドルですか?と聞きたくなるほど腐女子達にモテまくった。
道を歩けば、
『ルーク〜〜〜vvv』
『きゃーv 眉間に皺寄せちゃって!アッシュみたいでカッコイ〜!』
『あ、見てみて今の顔!かっわぃい〜!!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・イジメですか?
オレの名前はルークじゃない!
早瀬昭人って一個人だ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁんて言っていたら、何故か彼女たちはヒートアップ。
何故だ!?
何が彼女たちのツボにヒットした!?
そう思って妹に聞いてみれば、ニヤニヤと答えてくれた。
「お兄ちゃんこれプレイしたことないから知らなかったのね。このゲームはね、生まれた意味を知るゲーム、って副題があるのよ」
「生まれた意味??」
「つまりはね・・・・・・・・・・・・・」
敵国に誘拐され、帰ってきた主人公は記憶喪失。
しかもただの記憶喪失じゃなく、何も知らないまっさらな赤子状態で戻ってきた。
だけど周りはその赤子同然の主人公に記憶を失う前と同じ期待を寄せ、主人公を主人公と見ない人ばかり。
そんな中唯一自分を見てくれる人が一人。
主人公は勿論その人物に懐いた。
家族以上の信頼を相手に寄せた。
しかし物語が進むにつれ分かる真実。
それは自分が記憶喪失ではなく、本物のルークの変わりとして生み出された存在だということ。
その自分を産みだし、利用しようとしていたのは自分が一番信頼し、尊敬していた人だった。
主人公がそれを知ったのは、その人から手ひどい裏切りを受け、知らず取り返しのつかない大罪に手をかしてしまった後・・・・・・・・・・
今まで仲間だった人たちからも見捨てられ、見放され、主人公はどん底に。
更にとどめを刺すかのごとく現れた本物のルーク。
自分はいったい何なのか。
どうして生まれたのか。
主人公は傷つきつつも立ちあがる。
生まれた意味を知るために。
「――――――っとまぁ、大筋はこんな感じね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やべぇ、ちょっと感動した。
ついでに悲しいかな、腐女子達の心もちょっと理解した。
彼女たちは俺が『俺である』ことを主張するのに、ルークを重ねたんだろう。
・・・・・・・・・・・でも、だからってルーク用の衣装を送りつけてくるのはやりすぎじゃないかい?
うん、本当に驚いたよ。
白いびらびらした上着だとか、黒い暑ッ苦しいデザインの服だとか。
しまいにはスリットの深い海パンだよ?
白いタオル付きで。
俺にどうしろと?
またイベントとやらでコスプレしろと!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってかサイズピッタリってどうよ?
「あ、お兄ちゃんの情報結構良い値で売れたからこれお裾分けねv」
妹でした。
ぽんと渡されたのは茶封筒。
中を見てみれば歴代お年玉総額より遥かに多い、諭吉さん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・個人情報保護法って知ってますか妹よ。
俺の人権を誰か返してください・・・・・・・・・・・・・・・・。
ってな風に嘆いていれば、更に何かを手渡された。
ちょっと涙ぐんでいた目を服の袖でぬぐい(その時シャッターの音が聞こえるのはすでに日常茶飯事)見てみれば、俺に似た青年が勝ち気な顔で微笑むイラストが。
パチパチと瞬きしてよく見れば、件のゲームソフトだった。
「興味あるんでしょ?私もう5週したから貸すよ〜」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5週って・・・・・・・・これこないだ発売されたばかりだよね?」
「ほほほほほほほ。腐女子魂なめないで欲しいわ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
とりあえず進められるがままにゲームを始めてみました。
クリアするのに1ヶ月かかってしまいました。
感想。
「何これゲームじゃない・・・・・・・・・・・・!」
こんなにも心に響いた物語、フランダース以来だ!
で、スタッフロールが流れるのを横目にぐしぐしと鼻をかみつつ今までのストーリーを反復していると、
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・て・・・・・・・・・・・・くれ・・・・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ぅ?」
唐突に聞こえた声に顔を上げた。
きょろきょろと自分以外誰もいないはずの部屋を見渡してみるけど、勿論人の姿はない。
選挙カーでも通ったかな?
鼻をかみつつそう思っていれば、ざざざっと砂嵐の音が。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
聞こえてきた方向は現在もスタッフロールが流れるテレビ。
パッと視線を移しても、やはり変わらず流れるエンディング。
何だったんだと首をかしげていれば、ざざざざざっと画面にノイズが走った。
「!!」
びくっと反射的に身をすくめた。
すると再びノイズが。
驚いて眺めていればそれは断続的に起こるようになり、数秒後には砂嵐しか映さなくなっていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それをポカンと口を開け見ていたら、
『・・・・・・・・・・・・・聞こ・・・・・るか・・・・・・・?・・・・・・・・・かいの・・・・・・・・れよ・・・・・・・・・・・』
頭に直接響いているような、低い男性の声。
(・・・・・・・・・なんだかローレライの声に似てる気が・・・・・・・・・・・・・?)
つい今さっきまで見ていたためか、幽霊とか心霊現象とかじゃなくてそっちがまず頭に浮かんだ。
だからかな?
「ロー・・・・レライ・・・・?」
馬鹿正直にそんなことを口走ってしまったのは。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とらえた』
きぃんと頭の奥で何かが繋がったような音がした。
瞬間。
光が全てを呑み込んだ。
ふっと意識が浮かび上がると同時に、視界に入ってきたのは見知らぬ天井だった。
どこだここ?
「あー、うー?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん?
「うー、・・・・・・・・・・・・ゃう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?
「ぅきゃぁ」
あらー?
何故か口を開けば出てくる幼い赤ん坊のような声。
「ぅおーあ、あ、だー・・・・・・・・・・・・・・・」
どうなってんだ・・・・・・・・・・・・・
うまく舌が動かない。
ついでに口もパクパクとしか動かない。
訳が分からなくて起きあがろうとしたけども、身体も思うように動いてくれない。
でも何とか根性で片手を持ち上げてみると、何故か紅葉のような小さな手が・・・・・・・・・・・・・・・。
「ぅうぅぅーー・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・これってもしかしなくとも俺の身体ですか?
つまり俺赤ちゃんですか?
「あらあら目を覚まされたのですか、ライオニール様」
「ぅーあー」
ライオニール?
・・・・・・・・・・・・・・・もしかして俺のことですか?
視線を動かして声のしたほうを見れば、金髪の美女。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つか、メイド・・・・・・・・?)
「あーだーぅぅうー」
「お腹がすいたのかしら?今ミルクをつくりますね」
「ぁうー」
脇腹に手を差し込まれ、ひょいっと抱え上げられ確信する。
(うっわー・・・、俺本当に赤ん坊だよ・・・・・・・・・・)
ぱふんと胸元に固定されると、柔らかい感触が。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・役得?)
とかなんとか不埒な考えを抱いていると、視界に入った扉がバン、と勢いよく開いた。
それにビクッと反応すれば、ポンポンと背中を撫でられる。
「もうっ、ライオニール様が驚かれたじゃない!それに入室する時はノック!」
「あ、あぁワリィ!早く殿下に会いたくてよぉ・・・・・ぁあっ!殿下起きられたんですね!!」
「ちょっとジークっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何事。
唐突な展開に茫然とジークと呼ばれた男の方へ視線を向ければ、何やら赤を基調とした軍服みたいな服が最初に目に入った。
なんかその服装に見覚えがあるような、と思いつつ上へと辿り、ぱちり、と音がしそうなほど視線ががっちりとあったかと思うと、
「わ、わ、目があったぜリザ!初めまして殿下!俺は殿下の専任騎士として仕える事になりましたジーク・リンフォツァンドですっ!」
なんかすっごく爽やかな美形の兄ちゃんが、喜色満面に顔を近づけてきたからちょっとびっくり。
「う、あー、いーう?(え、えと、ジーク?)」
「あ、もしかして今俺の名前呼んでくれた!?」
「そんなわけないでしょ!もう!」
力尽きた。
てゆーか、名前変換多すぎてどうしようか悩んで辞めた。
ちなみにチキン主の前世の兄。
10/05/16
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