人って、結構あっさり死んじゃうんだと理解したのは、奇しくも自分の命が終わる間際のこと。 直前までは結構悩んでいた。 人ひとりの命がどれほど重いのかとか、命を奪うことの罪深さがどれほどのものなのかとか、とりとめもないことを考えては寝不足に。 自分が人の命をたやすく奪える力を持っていると知ってはいた。 名家じゃないけど、アカデミーに通っていた時から成績はトップ。 下忍にしておくにはもったいないと持て囃され、上忍でも扱うのが難しい術をマスターしていることが自慢で。 でも人手が足りないからと戦場に迎い、いざ忍の本分ともいえる戦力として動く時になって知る、命のやり取り。 試験でも、修行でもない、本当の殺し合い。 響く爆音、飛び交うクナイに手裏剣。 苦しむ怪我人に、事切れた死体。 すべてが、地獄のようだった。 でも、そこが現実だった。 ――――――――――――― し に た く な い 戦場において、冷静さを失うことは死を意味する。 それは事実だった。 深々と突き刺さる、17本ものクナイ。 吹き飛んでいく自分の左腕。 焦った表情の隊長。 泣きべそかいた、チームメンバー。 それが、俺の最後の記憶。 海の上からのリスタート ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最後の記憶、とか何とか言っちゃったけど、どーいうわけか続いちゃったりしてる現在。 なにがどうなったのか分からないけれど、気づいたら海に浮かぶ船の上な俺。 「どこだろう・・・・・・・・・・」 現状がさっぱりだけれど、外敵は今のところ見当たらないので自分の確認。 服装は、自分が記憶している最後のものと同じ。 動きやすさを重点においた袖なしのインナーとジャケット、右足に取り付けた手裏剣ホルスター。 腰には巻物とか小物とか入れたポーチ。 うん、代わりなし。 そして次に体の確認。 「・・・・・・・・・・・・・・・」 一応周りを見渡して誰もいないか確認し、帯やベルトを解いて床に。 続いて服をくつろげ、見下ろしてみれば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・傷だらけだった。 俺が記憶している、致命傷となったクナイの傷17箇所。 まだまだ子供な俺の体に、痛々しく残る傷の痕。 でもそのどれもが微妙に薄皮一枚で塞がっており、このまま何事もなく平静にしておけばわずかな跡を残して治りそうな状態。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 爪の先で少しひっかいてみれば、うっすらと血が滲んできた。 続いて掌を当て、チャクラを流して傷の深さと状態を確認してみれば、血管とかは大体塞がってるみたい。 細胞のほうも特に問題ないから、強い衝撃とか運動とかしなければ開きそうにはない。 そういえば、さっきから普通に動かしていたけど俺の左腕、千切れなかったっけ? なんて今さら思い出し見てみれば、千切れたあたりが胸の傷と同じ状態に。 …………あ、でも腕のほうは結構しっかりくっついているみたい。 ぐるぐると腕を回し確認してみれば、骨とか筋組織に違和感がほとんどない。 「・・・・・・・・・・・・どうなってるんだろう」 服を着ながら、ぽつりと呟く。 着終わったら立ち上がり、ほんの少し運動。 屈伸したり、逆立ちしたり。 状態をそらした時にちょっと胸の傷がピリッとして、ジンワリした。 (傷、開いちゃったかな) でも血が溢れるほどでもないし、にじむ程度だからいっか、と放置。 胸の傷が少しひきつるくらいで、他は特に問題なしと確認すれば、次は周囲に意識を向けることにした。 まず第一に、今乗っている船は小舟。 オールが一本床に転がっているくらいで、他は何も見当たらない。 次に、今いるところは見渡す限り、一面の海原。 島らしき影は見えず、太陽の位置から正午前後と推測。 そよそよと穏やかな風が頬を撫で、薫る匂いは血などの臭い一切含まない自然一触。 ・・・・・・・・・・・・・・どこだろう、ここは。 というか、現状は一体何なのか。 自分は確かにあの時生きているはずもない傷を負い死んだ。 心臓に、直撃したのを目撃したし。 幻術だったりなんらかの術にしては不可解な点が多すぎるし、まずなにより俺が生きている理由になりはしない。 「情報が、少なすぎる」 困ったな、とため息一つ。 「ひとまずは・・・・・・・・・・陸を探そう」 このままただ無意味に海上を漂っていても進展はないと思った俺は立ち上がり、船尾へと移動する。 どこに向かえばいいのかは分からないけど、あてずっぽでもいいからまっすぐ進んでみればどうにかなるかな。 でも延々とオールを漕ぐなんてやってられない。 だから、ちょっと最初だけはズルしちゃおう。 両足にチャクラを集中し、床と接着。 次いで両の手を組み合わせチャクラを練りこみ、前方へと手を一気に突き出す。 風遁・ 瞬間、突き出した両手の挟間から噴き出す突風。 その勢いに押されるよう、海面を滑るように走り出した船。 「・・・・・・・・・・・・・・・・っ、」 勢いを殺さないようにとバランスをとれば、必然、体にかかる負担が増え傷に響く。 でも、どうにか踏ん張り風を放出すること30秒。 もうこれ以上は無理、ってところで術を止めれば、くたり、と足から力が抜け床とお友達に。 (怪我の影響かな・・・・スタミナが長く続かない・・・・・・・・・・・・・) 惰性で進む船に揺られ、若干上がった息を整えていればふと草木の香り。 顔を上げ周囲を見渡してみれば・・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・・・・・・・・よかった、陸だ」 最低でも3度か4度、今の術を出さなければと覚悟していたのに、たったの一度で見えてきた陸地。 どうやら、運がいいみたい。 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・てか、死んだと思っていたのに生きてるんだから、運がいいどころじゃないよね、普通) 一応ここから先は、何かあったらを考えてオールで漕いで行ったほうが無難かな。 体力はちょっと使うけど、チャクラの消費よりかはまだまし。 「・・・・・・・・・・・・・無事木の葉に帰れるかな、俺」 |