最初見た時は、あ、なんかここやばいところ?って思った。

 でも、近づけば近づくほど、なんか違和感が。


「・・・・・・・・・・・こんにちは」

「おう、坊主。お前そんな小舟で何してんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・迷子?」

「ほぅ、そりゃまた壮大な迷子だな。」



 自分の体を忍術を使いやすいよう改造する場合があるとは知っていた。

 もしくは術でそのような状態に変化させることも。

 あるいは、血継限界による血の影響。


 だから彼らを目にした瞬間俺が思ったのは、そのいずれかの可能性。

 つまり彼らは、戦闘能力を持つ存在。


 敵か味方かの判別はできないが、その両者のどちらでもなくても場合によっては敵対する可能性がある、と緊張したのは少し前。


 でも、なんか実際目の前に立つと、どうにも同業者の臭いがしなくて………。



(むしろ磯臭い・・・・・・・・)







最初の一歩を踏み出す時は前後左右の確認の後に









 どう行動すべきか、まずは彼らを見極めないことにはどうしようもない。

 そう考えた俺は、とりあえず魚みたいな背びれと水かきその他いろいろ変な3人組を観察することにした。。



「どうするよ、この坊主とりあえずアーロンさんとこつれてくか?」

「でもよー、迷子のガキ連れてっても、その後どーすんだよ」

「あ?」

「人間のガキをアーロンさんの前にもってったら、泣きわめいてうるさいだろ?」

「あー」

「んで機嫌損ねたらよ、まーた暴れるぜ、あの人」

「そうだなー」

「でもよ、こいつ俺ら見ても騒がなかったよな」

「「あ、そういえば」」



 アーロンさん、人間のガキ、それぞれ気になるところではあるけれど、どうやら彼らの容姿は普通に考えて奇異に入るようだな、やっぱり。

 なんて話の流れから推測していたら、揃ってこっちを振り向いた。


(普通の反応だと、やっぱり少しおびえたほうがいいのかな)


 とりあえずびくっと彼らの行動におびえたよう、僅かに身をすくめ、戸惑った様子を演じてみた。


「えと、あの・・・・・」

「おまえよー、もしかして俺ら以外の魚人見たことあるのか?」

「あ、だったらこいつ近くの村のガキじゃねーか?」

「でもそれだったら、やっぱり怯えるんじゃねー?」

「・・・・それもそーだなぁ」



 ギョジン・・・・・・・・・・・この人たちの姿からすると『ギョジン』は『魚人』、かな。

 あと彼らはここら一帯の人には既知の存在。

 そしてもしかしたら、彼ら『魚人』はここら一帯の支配者?


 ならばそれを踏まえ今の俺がとる最善の態度は・・・・・・・・・・



「あの、お兄さんたちは『魚人』の人たちなんですか?ボク、始めて見ました・・・・!」

「お、なんだおめー、やっぱ魚人見るの初めてかー」

「はい!・・・・あの、ところでここはどの辺りなのかお聞きしても宜しいですか?」

「ここはコノミ諸島のココヤシ村の港だぞ坊主。」

「コノミ諸島・・・・・・・・・・」

「坊主はどこから来たんだ?ここいらでは見かけねぇ服装だけどよ」

「えっとボクは、波の国の者なのですが・・・・・」

「ナミの国?ははははっ!!聞いたことねぇーけど面白い名前の国だな!!」

「え?そうですか?」

「いやいや俺たちの仲間にな、ナミってやつがいるんだよ。で、ナミの国って、ぶっはははははっ!!!



 適当に言った国名がなんか笑いのツボに入っちゃったみたいだけど、今のおやじギャグもどき、そんな面白いか?

 笑い続ける魚人とやらに首をかしげる。



(でも、コノミ諸島か・・・・・・・聞いたことないなぁ)



 頭の中で地図を広げてみるけど、どこにもそんな名前はない。

 コノミなぁ・・・・・・・・・・漢字なら『木の実』?

 漢字でもカタカナでもそんな読みの諸島は俺の知る限り、存在しない。

 しかも魚人なぁ・・・・・・・・・・・・どこなんだろう、ここって。



 なんて内心頭を抱えていたら、どうにか笑いのツボから抜け出した様子の魚人たち。


 もう完全に俺のことはそこらのガキんちょだと認識しているようで、気安く頭をなでられた。



(足のホルスターにも反応なし、ただ姿が異形なだけで、こいつら他里の忍者ってわけじゃないみたいだな・・・・・・・・・・)



「まー、とりあえずアーロンさんとこ連れてくか」

「そーだな。この様子ならギャーギャー騒ぎそうにもねーし」



 ・・・・・・・・・・・さて、どうしよう。

 このままいけば俺はこいつらの、おそらくリーダーだと思われる存在の前に連れて行かれる。

 それがこの時点での最善か否か。

 判断するための情報が足りなさすぎる。


(だけど下っ端らしき彼らを見る限り、そう危険なことはない、かも?)


 なんて考えていたら、ふと感じた気配。

 何気なく振り返ったら、つられたように三人組も同じ方向へ視線を向けた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・船?」



 俺が乗っていた小舟より少しでかい、3〜4人が数日海を航海するには申し分ないほどの船。


 乗船者は・・・・・・・・・・これまた3人。

 ひどく驚き怯えた表情の二人に、不機嫌な様子の男一人。


 ここの船着き場に停まるのかと見ていたら、なんか普通にスルー。


 でも乗組員の様子から、魚人におびえて急遽予定変更って感じ?




「小僧!お前はココヤシ村に行ってな!」

「お前みたいなガキよりあっちのほうが怪しいからな!」



 なんだろう、と見ていたら、突然そんなことを言って海に飛び込む魚人三人組。

 ざばばばっと、見かけどおり泳ぐのは得意なんだろう。

 結構なスピードで船を追いかける三人を視線で追い、そんな三人に気づいたのか海に飛び込み逃走を図る・・・・・・・・・・二人?

 もう一人はどうしたんだろうと思っていれば、そう言えばさっきちらと見えた時にロープで縛られていたような?と思いだした。



 よく分からないけど、人の姿をしていたからここら一帯は魚人だけではないのだと一安心。


 あとのことは、まぁ俺には関係ないかなと考え、視線を海から陸地へと戻した。



「村に行ってな、ね。」



 確かに、村はあった。

 人の気配もたくさん、そこにあった。


 でも・・・・・・・・・・・・・



「魚人に怯えてるのかな・・・・・・・・・誰も出てこない」



 こっちを窺ってる気配はある。

 でも視界に入る人は、誰もいない。


 だけどさっきの船を追いかけて行った騒ぎで、何人か出てきそうな気配。

 つまり、俺のことはまだ誰も知らない、と。



「ちょいと、忍んでみるか」



 たん、と地面を蹴り、移動した先は近くの家の屋根。

 気配をできるだけ消し、降り立った家の気配を探る。


 そして目的の部屋に人の気配がないと分かれば、音もなくするりと忍び込み、探すのは書物。


 目に入った本棚に近寄り、まずはざっと背表紙を眺め、どれに自分の求める情報が載っているかを推測する。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・が、


「全部・・・・・アルファベット」


 読めないことは、ない。

 最近かっこつけてタイトルだけそれにする本が急増していると本の虫の知人が愚痴っていたけれど、今目にしている本棚は、そのすべてがそれ。



 まさかと思って手に取り開いてみれば、案の定それらで埋め尽くされてるページだらけ。



(・・・・・・・・・・・・・・・・下手な暗号より疲れそう)



 小さなため息一つ。


 いったん目を閉じ気合を入れなおし、俺は情報収集を開始した。
















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