知らない土地で家宅侵入の後情報収集を開始して、数十分。 なんというか、得た情報はまだ微量ながらも、どうにか現状の把握には役に立った。 ・・・・・・・・・・・・・・・簡潔に言えば、 この地に、火の国含む忍び五大国、そしてその他大小様々な見知った国や里。 それが、この地には。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、この、世界には、か。 だってあまりにも違いすぎる。 「 希望と絶望は常に背合わせに存在する 忍の心得・第25項。 忍はどのような状況においても感情を表に出すべからず。 任務を第一とし、何事にも涙を見せぬ心を持つべし。 俺は、忍を学び始め、忍として額当てをもらったその時から、その心得を念頭に今までやってきた。 まだ8才だからと、子供だからと甘えは決して許さず、何事にも冷静に対処できるよう視野を広く心を落ち着け全力で取り組んできた。 でも初めて手を血で汚したとき、初めて他人の命を奪ったとき、人の命が存外あっさり終わることを知ったとき、俺は心を乱した。 そして乱したが故に、本来なら無くすはずだった、この命。 何が原因か、俺の命がつながった理由は何なのか、この世界は何なのか。 ここ最近、俺の心は忍としてはあってはならないほどに、乱れきっている。 「どこなんだよ、ここは・・・・木の葉は・・・・・・・・・・」 手に持った本に額を押し付け<、強く目を瞑る。 ごちゃごちゃして混乱する頭を、一切合財無理やり無にし、数秒。 「・・・・・・・・・・・・・・・よし、もう、大丈夫」 肺の中の空気を入れ替えるように、大きく深呼吸。 立ち上がった俺は、まだまだある本の知識を得ようと本棚に近づいたんだけど・・・・・・・ (外が・・・・・・・・・騒がしい?) 聞こえてきたざわめきに立ち止まり、窓の傍の壁に張り付きそっと外を窺う。 数人の人影。 その中心は、帽子に風車を刺した傷だらけの男。 ひどくあわてたような焦ったような村人に囲まれ、落ち着き払った様子のその男は、帽子を目深にかぶっていてこの位置からは目元は見えない。 でも口元が見えているため、読唇術でその会話を聞きとってみることに。 (「たぶん わたしの ぶきが みつかった いっけんだろう 、 みんな いえへ はいってくれ」) ある一方方向を気にし、焦った村人の様子からここに今から誰かがこの村に来るのだと、予想できる。 そして今の言葉。 (さっき会った魚人とやらかな。そして、ここは魚人による完全支配を受ける支配下・・・・・・) 想定できる可能性は、そんなところ。 ならば今からここに来るわけだ。 先ほどの連中だけではいまいち実力が判別できなかったから丁度いい。 若干の危険はあるかもしれないけれど、室内から移動し<声が聞こえるだろう位置へと移動。 そして程よい位置を見つけ身を潜めたその時、いいタイミングだったみたいで現れる異形の存在。 (魚の種類で魚人も分かれるのか・・・・・・・・・てかでかいな) ぞろぞろと阿呆みたいに同胞を引き連れ、おそらくあの一番大きな魚人がボスってやつかな。 あー、もしかしたらあれがアーロン? (てかさっき会った魚人3人組もいる) なんて考えながらも、耳は村人と魚人の会話へ。 「てめェだったのか、3日前 「・・・・・・・・あァ、そうだ。あんたの支配下じゃあコレクションも認められんのか。私はもともと武器を眺めるのが好きなんだ」 「あァ困るね。武器は邪念と暴力しか生まねェ!! 平和を害する一番の原因になる・・・・・・・・」 (・・・・・・・・・・・・まぁ、間違いじゃぁないなぁ。でも、何を以て武器とするのかは扱う人次第ってのも、また事実・・・・・・・・・・) 「おれ達の支配下には20の町村がある・・・・・“反乱者”は困るんだ。管理者としてな・・・・・・・・」 (管理者・・・・・・・・どうも、いい響きじゃないなぁ) 「大港町“ゴサ”は反乱した町として他の町村への見せしめに消した!! “奉貢”を払えなかった失態はおれ達への反乱を意味するからだ!!!」 (・・・・・・・・・・ほーぐ?払うってことは金品の類?) 「いいか、下等な人間は何も考えずただせっせと働き金を納めてりゃいい!! おれには莫大な資金が要るのさ!! てめぇらの“奉貢”はやがてこの 語るに落ちる、ってやつか? あー、まぁ違うけど、これで大体理解した。 要はここら一帯、コノミ諸島はやつら魚人に完全支配された植民地ってわけだな。 しかも穏やかじゃない、武力支配。 「以後てめぇの様な反乱者を出さねェためにも、ここで殺して他の町村の人間どもにみせしめなきゃいけねェ!!」 「!」 (ちょ、本当に穏やかじゃないよっ) 義を見てせざるは勇無きなり。 気がつけば中腰。 手にはクナイ。 ・・・・・・・・・・本来なら、全くの他人である俺が手を出していいようなことじゃない。 でも、見過ごしちゃいけないと、俺は思う。 だから風車のおじさんを助ける。 (・・・・けど今飛び出すのは得策じゃない) 「そんな勝手な話があるかアーロン!! あたし達はこの8年間“奉貢”を納めてきたんだよ!!今さら反乱の意思なんてあるわけないだろう!?」 (・・・・・・・・・・・・・あ、やっぱりあの大男アーロンで合ってたんだ) 「ゲンさんから手を離せ!!」 「ノジコちゃん、待て!!」 俺と同じように身を潜めていた村人が我慢できずに飛び出して来るのを静観。 まさか口答えしただけで殺すだとかはないとの判断だ。 「武器の所持が反乱の意思だとおれは言ってんだ。この男には支配圏の治安維持のため死んでもらう!! ・・・・・・・・・・・・・それともなにか?村ごと消えるか・・・・ てめぇら一人でもおれ達に手を出せば、村の消滅は免れねェ!!」 「みんな家へ入れ・・・・・・・・・・・!! ここで暴れては私たちの8年が無駄になる!! 戦って死ぬことで支配を拒むつもりならあの時すでにそうしていた!! だがみんなで誓ったはずだ。私たちは“耐え忍ぶ戦い”をしようと!! 生きるために!!!」 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・) 「高説だな! いいことをいう。そう、生きることは大切なことだ。生きているから楽しいんだ」 「!!」 「ブふっ!!!」 「分相応だな! こいつは抵抗の無意味を知ってる!!」 (あの魚人・・・・・・・・っ!) 「生き物は皆、生まれながらに平等じゃねぇんだよ、シャハハハハハハハハハ!!!」 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・平等じゃないのは認める、けど・・・・・そんなのは小さな差だ) ぎりっ、と手に握ったクナイに力が入る。 身を低くし、そろそろ頃合いかと続くやり取りを見ながら突入するタイミングを計る。 だけど・・・・・・・・・・・・・・・ (・・・・・・・・・・・・おいおいおいおい、あの長鼻の兄ちゃん・・・・・・・魚人じゃないよな・・・じゃなくて、なんで屋根の上になんか登ってなにしてるんだ・・・・・) 俺のいる位置からは、道を挟んだ向かいの位置。 屋根に上りビビってるのか両足をガクガクさせながら両の手に構えるのは・・・・・・・・・・・・ぱちんこ? あの、二股の棒にゴムを張って挟んだ物体を遠くに飛ばす、ぱちんこ? ・・・・・・・・・・・・・・・・武器? 「え?」 ちょっとあまりにもレトロな物を見たせいか一瞬思考が停止したけど、今までの経験ですぐさま再起動。 若干身を乗り出し、パチンコの狙う先を推測。 (・・・・・・・・・・・・・おいおい・・・・・・・) 呆れというか関心というか、明らかに魚人に怯えてるのに立つその姿は、まさに俺がやろうとしていたこと。 (これは・・・・・救出する相手を変えなきゃいけないかな・・・・・・・・・・・・) 手に握ったクナイをくるりと回し、一瞬のためらいの後元の位置に収納。 そしてすぐに飛び出せるようにクラウチングスタートの姿勢を取った数秒後、 「“火薬星”ィ!!!」 大声と共に響く爆音。 起爆札ほどの威力を持っているであろうそれを直撃し、姿勢の揺らぐ魚人―――アーロン。 周りはそのことに動揺するが、すぐさまことの犯人を見つけ警戒を始める。 「おれの名は勇敢なる海の戦士!!キャプテ〜〜〜〜〜〜ン・ウソップ!!!」 (キャプテン、足のガクガク凄いよ。) さてさて、まだ飛び出すタイミングじゃないなと考えつつ周囲の観察。 (村人の反応からあの長鼻兄ちゃん、俺と同じ異邦者か) 「世界はおれを恐れ魔界から来た男、“ウソップ大魔王”と呼ぶ! 今逃げだせば許してやろう! おれには8千人の部下がいる!!」 (ウソだな) あまりにも見え見えな嘘をここまで堂々と言い放つ長鼻兄ちゃんに、ちょっと感心。 「アーロンさん、あいつだ!! さっき取り逃がしちまった奴だ」 (ん?) 声を上げる魚人は最初に会った三人のうちの一人。 その魚人の言葉によくよく思い出せば、あの長鼻兄ちゃん、あのとき船に乗ってたやつの一人だ! あー、なんでそんなついさっきのこと忘れてるんだよ俺! やばいな、一応混乱や戸惑いは吹き飛ばしたつもりだったけど、まだやっぱり残ってるみたいだよ・・・・・・・。 (しっかりしなきゃっ) そう心の中で再度活を入れなおしていたら、アーロンのブチ切れた声が聞こえた。 「下等な人間が、おれに何をしたァ!!!!」 その叫びと共に長鼻兄ちゃんの立っている家に張り付き、何をするんだろうと眺めていたら・・・・・・・・・・ (うわっ、馬鹿力っ!!・・・・・やっぱ種族の差ってやつ?) 驚くほどあっさり二階建ての家屋を持ち上げるその姿に驚いたけれど、すぐさま意識を切り替える。 (あのままブン投げられればあの兄ちゃんもさすがに危ない、飛び出すなら今だっ!) ぐっと両足に力を込め、一気に地面を、蹴る。 飛び上がった勢いもそのままに、バランスを崩し片足を浮かせた長鼻兄ちゃんの腕をとれば、驚いた眼で見られた。 「お前っ!?」 「死にたくなけりゃ、掴まっててよ」 そう言うや否や、響く轟音。 持ち上げた家屋を隣の家へとぶつけ、数軒を巻き込み崩壊するそのさまを見て、改めて思う。 (術やらなんやらを使わず生身でコレ・・・・・・・・・・・・・・・・確かに世界が違うよな・・・・・・・・・・・・) だけど、敵わないほどじゃない。 スタン、と軽い音とともに着地するのは、普通に地面。 続いてどさりと重い音をたて、地面にお尻から着地する長鼻兄ちゃん。 「あ、ごめん。着地のことまで気を払ってなかったよ」 「いたたたたたたっ、・・・・・いや、助かったぜ坊主、命の恩人だっ!」 「はは、どういたしまして」 なんて軽いやり取りをしていれば、砂煙も晴れ俺たちの姿に気づいた魚人たちが騒ぎ始めた。 「おいっ!あいついつの間にか移動してやがる!!」 「てかあのガキはなんだ!?さっきまでいなかったよな!?」 「あ、あのガキさっきの・・・・・・・・・!!」 ごちゃごちゃと聞こえるけど、答える必要なんてない。 俺は長鼻の兄ちゃんの腕を再び掴み、魚人たちのいる方向等は逆へと走り出す。 「逃げるよ」 「お、おおっ!」 担いだほうがいいかな、とか思ったけど、横を走る長鼻兄ちゃんは存外、足が速い。 これなら担がなくても逃げ切ることはできるなと判断した俺は、追いかけてくる多数の足音のほうをちらりと振り返る。 (・・・・・・・・・・・5人か・・・・・・・・・どうにかなるかな) 追いかけてきていることに気づきさらにビビる長鼻兄ちゃんを見上げ、ビビって大声を上げて走り続けている割にスピードに変化はないことを確認。 結構スタミナはある様子に満足し、並走する兄ちゃんに声をかけた。 「ね、長鼻の兄ちゃん」 「うぉぉおおおおおぉぉぉおおっ・・・・・・って、なんだ少年!!??」 「あいつら俺がひきつけるからさ、この少し先道が二股になってるでしょ?そこで別れよう」 「はぁっ!?お前がひきつけるって、んな無茶な!!」 「無茶じゃないよ。俺は、兄ちゃんと違って戦闘は専門なの。あれくらいなら、特に問題はない。さっき兄ちゃんを助けた動き、覚えてない?」 「うぐっ!!」 二コリ、と笑いながらそう言えば、押し黙る兄ちゃん。 「ま、もし一人か二人そっちに行っちゃっても、兄ちゃんの足の速さどうにかなるよ」 「だ、だけどよぉ・・・・・・・」 「ほら、もうわかれ道はすぐ其処だって!兄ちゃんは右ね!俺は左行くから!」 そういうや否や、俺はスピードはそのままに後ろを向き、バック走しつつ口の横に両手をあて息を吸い、 「魚の兄ちゃんたちー、やっぱり陸は海と違って走り慣れてないのー?全っ然追いつけないなんておっかしぃー!」 あはははっと笑いながらそう言えば、うまい具合に逆上してくれるから有難い。 再び正面に向き直った俺は、唖然とした長鼻兄ちゃんにウインク一つ、目先に迫った二股道の左へと進んだ。 |