俺を追いかけて来たのは、4人。 どうやら相手さんの中にも冷静なのがいたらしく、俺の言葉に逆上しつつも長鼻の兄ちゃんを追いかけて行ったのが一人だけいた。 まぁでもあの逃げ足だったらよっぽどのへまをしない限りは逃げ切れると思うし、大丈夫だろ。 てか俺は追いかけてきた4人を相手するんだから、おとりとしては合格ラインだよね? なんて考えながら走ること数分。 未だ怒声を上げ追いかけてきている4人とそこそこの距離を開けていた俺は、もうういいかな、と足をとめた。 「ぜぇ、はぁ、ぜぇ・・・・こっ・・・こぞうっ、ようやくっ、諦めたかっ・・・・・ぜぇ、はぁ・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・そんなに息切れして、きついんだったら体力消耗の激しい怒声なんてあげなければいいのにさ」 「うるせぇっ!ぜぇ・・・・それも、これも、お前が逃げるからだろうがっ!!」 「追いかけられると逃げたくなる心理って、分からない?」 「あ、分かる・・・・・・・・じゃねぇ!!!」 ノリ良いな・・・・・・・・・魚人ってみんなこうなのかな・・・・? 「まぁ、さ、そんなに疲れてるんだったら、永遠の眠り、っての?体験してみる?」 ちゃきり、とクナイを胸の前に構えて笑顔を顔面に張り付けそう言ってみたら、おちゃらけていた雰囲気の4人組も真剣な表情に。 「いざ参る」 未知の世界は想定外だらけ くるんと手に持ったクナイを回し、滴る血を遠心力で飛ばしながら俺は、地に伏した魚人を見下ろす。 「腕力、体力、回復力、たしかに人間よりかは上だな・・・・・・・・・・・・・・・けど、強化された忍ほどじゃぁない」 思ったほど強くなかったし、と呟きながら倒れている魚人の服でクナイに残った血をふきとった。 息もしていない彼ら。 流れ出た血がちょっと多くて、知らない人がこの現場を見たら夢に見るなと考えた俺は少し思案の後、火遁でがっつり燃やしてみた。 「さて、と。これからどうしよう・・・・・・・・・・・」 ここがとにかく異世界なのだとは理解できた。 けれど、ならばどうして俺はこの世界へ? あの時俺の命が終わったのは確か。 きかっけなんて、何一つ心当たりがない。 誰かが意図的に俺をこっちに放り込んだのか、何らかの要因が重なってこの状態か。 でもそうなると良くて瀕死のあの傷がこんな中途半端に治ってるのがまた疑問で・・・・・・・・・・・・ とにかくこれからしばらくはこの世界を旅し、帰れるか帰れないかの情報を集めることが先決だな。 そのためには足の確保が第一だ。 だけど魚人たちがこの島一帯を支配しているとなると、そう簡単に手に入らないのは確実。 ならばどうするか。 (あんまり気乗りしないけど、魚人たちを倒して平和になったお礼として穏やかに船を得るのが最善か・・・・・・・・・・・?) 正直なところ、先ほど助けようと行動したのはおせっかいでしかない。 でもさっきほんの少しとはいえ関わってしまったのだから、あとはこの島民の問題だ、なんて問題を放り投げるのは、後味が悪い。 (かといって、相手が俺の手に負える範囲かどうかは見極めてからじゃないとな) 藪をつついて蛇を出しちゃったりしたら、目も当てられない。 と、そんなかんじに今後の行動を決め、さて隠密行動開始するかなと踵を返したその瞬間・・・・・・・・・・・・ ドッゴォォオオオォオォオオオオオンッ・・・・・・・・・!!! 「・・・・・っ!?」 まるで巨大何かがぶつかったかのような轟音と地響き。 砲弾とかじゃない。 すぐに考えついたのは忍術によるものだけど、この世界今までの知識を総合すれば忍術は存在しないか、もしくは相当マイナーなもの。 じゃあなんだ? なんて音のしたほうを向いて考え込んでいたら、ふと頭上に何かの気配。 と、同時に誰かの声が・・・・・・・・・・・・・・・・? 「林に突っ込むぞぉ!!」 「うわああああああああああ!!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・え?」 びゅん、と凄まじい勢いで頭上を通過していったそれは・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・船・・・・・・・・・・?」 聞こえてきた声からして人が乗っているのは明らか。 数瞬後、おそらく着地したのだろう音と、それでも勢いが無くならないのか木々がなぎ倒されていく音が遠ざかって・・・・・・・・・ 「え・・・・・・・・・・・・・と、とりあえず人命救助?」 普通に考えたら着地した瞬間大破だと思うのに、角度と勢いと運が良かったのかいまだ進み続ける音がする。 でもその衝撃はやっぱりあると思うし、乗船している人が正直心配だ。 (・・・・・・・・・・・・・・・一応外見年齢上げて変化しておくかな。救助するにも明らかに子供な俺よりかいろいろと便利だし) そう判断すれば行動は早い。 駆け出しつつ両手で変化の印を組み、見た目が10代後半くらいに化ける。 船が向かった先は、えぐられた地面が教えてくれた。 それを辿って行けば開けた所に出、ようやく船も勢いを失ったのか、田んぼの向こう側で大破しているのが見える。 そこに駆け寄りつつ様子をうかがってみれば、何やら元気そうなので一安心。 「おい、あんたら無事か?」 一見した感じ大丈夫そうだけど、一応そう言葉をかけながら近寄れば、そこには4人の人影。 一人は麦わらをかぶった黒髪の男。 一人は金髪に黒スーツの男。 一人は額当てを頭に巻いた男。 ・・・・・・・・・・・・・額当てを見て一瞬警戒してしまったけど、そこにはどの里のマークも入ってなく、おそらくは「額当て」という防具を身につけているだけと判断。 そしてラスト一人は、額から血を流してはいるものの、特に問題なさそうな芝生色の髪の男。 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ、あの緑頭って・・・・・・・・・・魚人との初遭遇したとき通りかかった船に乗ってなかったっけ・・・・・・・?) なんて思いながらも、その感情は表に出さない。 「んあ?なんだー、おまえ」 「さっきあんたらの乗った船が俺の上を飛んで行ったから気になってな」 「あー」 「大怪我でもしてたら大変だと思って来たんだが・・・・・・・・・・・頑丈なんだな」 「おうっ!おっもしろかったぞ!!」 「は?」 なんだ、その返答。 この麦藁の男、話通じてない? 「あー、気にするな。こいつはいつもこんなんだから」 「そうか・・・・・・・・・・・」 金髪の男が妙に疲れたようにそう言って来たってことは、もう明らかに普段からこの調子なんだろうな、この麦藁。 「とりあえず簡単な手当てならできるが、そこの頭から血を流してるやつ以外、怪我は?」 「おっ、お前医者か!?」 「いや、少しかじった程度だ。」 何故か顔を輝かせ俺が医者であるか聞いてきた麦藁にあっさりとそう言い返せば、ひどく落ち込まれた。 ・・・・・・・・・・・・・なんなんだ? (まぁ、とりあえずは・・・・) 「そこのあんた、頭の怪我手当てを・・・・」 「あ?」 「・・・・・・・・・・・・・ていうか、頭の怪我だけにしては随分血のにおいが・・・・もしかしてその包帯の下、怪我したばっかりとか?」 「・・・・分かるのか?」 「しっかり治療したのなら問題ないが、血の匂いが酷い。あんたの様子から死には至らないだろうが、ひとまずはこれを・・・・」 緑頭にまとわりついたにおいと顔色から、相当な量の血を流したと推測。 ならばと腰のポーチから取り出すは、増血剤。 「・・・・・・・なんだ、これ」 飴玉より一回り小さなそれを、興味津々に覗き込む麦わらたち。 「増血丸だ。見た目はこんなんだが、効果は高い」 「ぞうけつがん、ってなんだー?」 「・・・・・・・・・流れ出た分の血液を補い、鉄欠乏性からなる貧血などを防ぐ薬だ」 「おまえ、何語喋ってんだ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 聞かれたから答えたのに、さっぱり理解できないといわんばかりに顔を歪める麦わらに小さくため息。 「とにかく怪我の回復効果があるから、噛んでからゆっくり飲み込んで」 「・・・・・・・・・・助かる」 がりがりと増血丸を噛み砕く音が聞こえ、言ったとおりゆっくり飲み込んでいくのを確認。 さて次は額の傷の手当だとポーチから包帯やそのほか簡易救急キットを取り出していれば、金髪がこっちに視線を向けているのに気づいた。 「・・・・・・・・・なんだ?」 「いや、随分準備がいいな、と思ってな」 「ああ・・・・・一応旅をしてるからな」 「旅人か。じゃあここいらの人間じゃないのか、あんた」 「ついさっき上陸したんだ。あんたらも・・・・・・・・そういえば、なんで空飛んでたんだ?」 「あー・・・・、ちょっとな」 「ナミを連れ戻しに来たんだよ!」 「ナミ・・・・・・・・?」 ナミって、最初に遭遇した魚人が言っていた、 でもたしか 「そーいやゾロ、ウソップとジョニーは?」 「ウソップ・・・・・そうだ!こんな所で油売ってる場合じゃねぇっ!!」 聞き覚えのあるその名前は、ついさっき二手に分かれた長鼻の兄ちゃん。 「あの野郎今アーロンにつかまってやがんだ!」 追っ手は一人だったし、あの逃げ足の速さだったら大丈夫だと思ったんだけど・・・・・・・・・・・・・ヘマしたんだね。 せっかく俺が囮になったのに、と内心でこっそり呆れていれば、こちらへと近づいてきてる気配が一つ。 あわただしい足音に、乱れた呼吸。 たぶん、魚人じゃなくて人間だろうとそちらへ視線を向ければ、案の定。 「早く行かねぇと殺され「殺されました!!」」 サングラスのそいつは、乱れる呼吸もそのままに声を張り上げた。 (あ、この兄ちゃんも船に乗ってたやつだ) 「ウソップの兄貴はもう殺されました!・・・・・!ナミの姉貴に!!」 ふむ、ナミって女だったのか。 ていうか状況の移り変わりがこうも激しいと、いい加減疲れてきたよ、俺。 |