俺の現在の名は、

 名前だけを聞くなら男だか女だか分かんねーけど、実際のところ心は男、身体は女な現状。


 いやべつに性同一性障害とかじゃなくてだな、単に前世が男で、現在が女だからそんなことになってしまっているだけだ。

 しかも生まれた先は前世で小学生の時はまって見ていた漫画の世界、ドラゴンボールっぽい。

 で、俺はサイヤ人(ほら、あの金色ビカビカのあれ)として生まれたらしくて、両親がエリートだったためか生まれてすぐ婚約者だなんてもんも決まってしまった。


 相手はあれだ、野菜王子。


 原作だとブルマとくっついてトランクスだなんて愉快な名前の息子をもうけ、最終的には息子自慢するようなパパになったあの、野菜王子。


 ちょー嫌じゃね?


 てか一応心は男な俺としては、どこぞのヤローの嫁になるなんて死んでもいやだし、もしこの世界があのアニメ通りいかなかったら野菜王子とくっつかなきゃなんねーってのもマジで嫌。



 キャラとしては好きなんだがな。


 だけどここは現実。

 絶対来ると分かってるわけでもねぇ不確かな情報をあてにするより、自分で道を切り開かなきゃ何も始まりっこない。

 だから・・・・・・・・・・・




「俺はとんずらさせてもらうぜ」



 逃げることにした。






僕少女ならぬ俺少女(5才児)








 とんずらを決めたのは、野菜王子が婚約者だと知ってすぐ。

 とんずらを決行したのは、フリーザが惑星ベジータごとサイヤ人を抹殺するという話をたまたま聞いてしまったあとのこと。



 一応としての両親に愛情はある。

 戦闘民族としての誇りも一応持っている。

 婚約者な野菜王子もひねくれてて いじめがいがある そこそこ良好な関係を築けてるけど、気持ち的には甥っこと遊んでやってるお兄ちゃんて感じ?


 でも忘れちゃだめだ。

 俺の精神が、つい5年前までそこらの非力な学生だったってことを。




「おや、様、どちらへ行かれるので?」

「栽培マン相手のトレーニングにも飽きてきたからね、適当な星で遊ぼうかなって」

「それはそれは」



 宇宙船へと向かう途中、たまたま遭遇した同族の片手にはむき出しのナイフ。

 穏やかじゃないねぇ、と思いながら視線をそれに向ければ、苦笑が返された。



「なぁに、それ」

「王からのご命令でしてな、ちょいとゴミを片づけに行くんですよ」

「ゴミって?」

「あー、実は先日生まれた赤ん坊でしてね、それがちょいと問題がありまして始末することになったんですよ」

「へぇ」



 サイヤ人にとってすべてを左右する判断材料は、強いか弱いかということ。

 だから、容姿が整っていようが庇護すべき赤ん坊であろうが、強くなければゴミ同然。


 俺ももし前世の記憶なんてものがなかったら、それに対してなんら疑問は抱かなかったと思う。

 でも俺には前世の記憶があり、それによって俺の価値観はしっかり固定しているわけで、この風潮は正直いただけないわけだ。



(・・・・・・同胞を見捨てることはすでに割り切った。だけど・・・・・・・・・・・)



「ねぇ、その赤ん坊の始末、俺にやらせてよ」

「は?」

「たまには趣向を変えたいな、って思ってたから丁度いい。ね、代わってよ」

「え、や、しかし・・・・・・」

(あとひと押し!)・・・・・なぁに、それともあんたが俺の相手、してくれるわけ?」

「ひっ!!」



 ちょっと殺気を込め睨んでやったら、ビビって後退する大の男。

 これ、はたから見たら5歳女児にマジビビりするビキニ(笑)なおっさんなんだよな。

 うわ、第三者視点でじっくり安全な位置から観察してみてーなんて心の中で嘲笑っていたら、さらにおっさんは後退。



「ん?」



 さて、どうするのかと言葉を込めて笑みを向ければ、しばらくの間ののち壁側へと移動するおっさん。

 その行動から赤ん坊殺しは俺に譲ると決断したんだろう。



「・・・・で、その赤ん坊の名は?」

「ぱ、パラガスの息子の・・・・名はブロリーと・・・・・」

「ふーん、じゃ、もう下がっていいよ」

「は、はいっ!」



 ぴしっと直立不動の男の横を通り過ぎ、向かう先は保育室。


 俺のようなエリート出ならそれぞれ専属の保育係がつくのだけど、下級兵士は一纏めにされ育てるようになっている。

 だから保育室は行ったこともなければ入ったこともない場所。

 どんなところかなぁと思いながらも、ちょっと早足。



(パラガスの息子ブロリー・・・・・なんか聞いたことあるような・・・・・?にしても生まれたばかりで殺されるなんて・・・・)



 小さなときから、スカウターを使わなくてもいいように気配を読む訓練をしてきたから分かる。

 フリーザがすぐそこまで来ていることが。




(殺されそうな赤ん坊だけでも助けようだなんて、俺も偽善者だなぁ・・・・)



 たたたたっと早足に廊下を進む俺をすれ違う連中が不思議そうな顔で見ているけど、気にしてられない。



(えっと、保育室はこの先を曲がって・・・・・)



 とんとんっと階段をかけ下り少し進めば、聞こえてきた元気な赤ん坊の泣き声。

 なので今度はその声を頼りに進めば、見えてきたガラス張りの部屋。



(あそこか・・・・)



 中へ通じる扉を開け入室。

 そして探すのは殺される予定だった赤ん坊。



 もともと出生率の高くない民族なため、ここにいる赤ん坊の数はそんなにない。

 それぞれが寝かされた保育器に取り付けられたネームプレートをざっと眺め、赤ん坊の名を探す。



(うぅ・・・・・やっぱ来なきゃよかったかも・・・・・・・・)


 良心がずっきずき痛み始めた。

 せめて殺されそうな赤ん坊一人くらい救えたらなんて思ったけど、こんなにたくさんの赤ん坊見ちゃったら、さぁ?


 地味に痛む胸を服の上から押え、ぐっと目を瞑り思考を切り替える。



(・・・・そうだ、他の同胞にフリーザの強襲を知らせるにも信じてもらえないし、実力はあってもまだまだ子供な俺の話なんて誰も聞かない。だから一人で逃げようって決めたんじゃないか)



 視線を部屋に取り付けられた窓にやれば、そこから見える割と平和な光景。



(だけどせめて同胞に殺されそうになっている赤ん坊くらい一緒にって……、でも俺が事前に用意していた宇宙船にはどう頑張っても二人が限界なんだ)


「みんな、ごめんな」



 おぎゃあおぎゃあと元気になく赤ん坊。

 その隣にいた、目的の赤ん坊。

 近くに寄って行ってみれば、俺みたいに色素異常とかは特にないみたい。

 なので今度は意識を研ぎ澄ませ探ってみれば、



「・・・・へぇ、生まれたばかりなのに戦闘力が随分高いや!」



 なるほどね、これが疎まれた理由か。

 強い戦士は望ましいが、強すぎる戦士は望ましくない、と。


 手を伸ばし裸のままの赤ん坊を抱え上げれば、その振動で目を覚ましたのかぱっちりと視線が合った。



「ぅあー、あーだ、うー」

「ね、君俺と一緒に行く?」

「ぅきゃあ、う、あー」



 俺の言葉なんて分かんないはずなのに、どことなく嬉しそうな反応は、構ってもらえたのが嬉しいからかな?

 ま、とりあえず早く行こう。

 踵を返し部屋の出口へと向かったら、俺が扉の前に立つより早く開いた。



(いけね、ブロリーに気ィ配りすぎて外の気配に気づかなかった・・・・)



 唐突な出来事に反応できずその場でぼうぜんと立ち尽くしてしまい、入室してきた二人組とばったり。

 ・・・・・・・・・・・・と、とにかく猫かぶって乗り切るのだ、俺!



「おや、このような所でどうなさいましたか?それにその赤ん坊は・・・・」

「聞いてない?ベジータ王からこの子の処分が言い渡されたんだけど」

「そ、それは余計な口出しをっ!申し訳・・・・・」

「いや、いいよ。で、あなたたちは何用で?」

「あ、はい、私どもはバーダックの息子を連れにまいりまして・・・」

「ああ、戦闘力の低い子を辺境の惑星に送るってやつ?」

「はい」

「じゃ、なるべく早く送ってあげるといいよ、これから騒がしくなるからさ」

「は?」

「・・・・・・・・・・・・ううん、なんでもない。それじゃぁね」



(よかった。このタイミングならその子もどうにか助かりそうだな・・・・・)



 そう心の中で安堵しつつ、今度こそ宇宙船のあるほうへと向かう。



「うー、きゃう、あー、だっ」

「はいはい、ちょっと静かにしてろよ」



 抱えられ揺れる視界が楽しいのか、寝起きだというのにずいぶん元気な赤ん坊に思わずもれる苦笑。

 だけど、そうそう笑っていられないのも、また現状。


(フリーザがもう、すぐそこに・・・・・あれ?でも星から一人誰かがそっちに向かってる?)

 ・・・・・・・・・・・・どんな命知らずだ。

 俺とて幼少時からの訓練で今のところベジータよりそこそこ強いくらい。

 フリーザはそんな俺より数百倍は強いのに・・・・・・・・・誇りってやつ?

 うーん、どうにかその命知らずが時間稼ぎしてくれればいいのだけど・・・・・・。

 まぁ、感じ取れる範囲だと楯突くぐらいで精いっぱいってところかな。



「・・・・・にしても、凄いなぁ」

「あーうー?」

「俺はさ、やっぱり自分の命が一番大事。強くなるのは楽しいけど、死ぬのはいや。だから無謀なことは絶対にしない、できない。なのに…………って、俺はなに赤ん坊に愚痴ってるんだろうね」



 フリーザに楯ついて、生き残れる同胞なんていやしない。

 だけどスーパーサイヤ人になることができれば、勝機は見える。

 そうなればもう、あとは平穏な日常を老後までじっくり楽しみ放題ってわけだ。



「さあ行こうブロリー。残された時間は少ない」

「だー、あーぅ」


















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