フリーザのサイヤ人皆殺しについて知ることができたのは、本当に偶然だった。
半年前に散歩と修行を兼ねて宇宙をうろついていた時に、親しくなった異星人に習った千里眼を練習していたさなか、たまたま見ることができた光景が、まさにその瞬間。
フリーザに従う仲間だからと気を許したその背後からの強襲。
事故なんかじゃない、明確な殺意をもっての攻撃。
最近ずいぶんサイヤ人の能力が底上げしてきている事実に、伝説のサイヤ人が出現することを恐れてるんだろう。
ベジータ王もフリーザに対しては反感を抱いていたようだし、タイミング的にはそれの阻止も含まれてる?
まぁ、なんにせよ命のタイムリミットがせまってるのは間違いない。
そこで以前から考えていた惑星ベジータからの逃走をいざ実行、てわけだ。
ただその途中で同行者が一人増えてしまったわけだけど、一人じゃちょっと寂しーなーとか思ってたから全然オーケー。
「今日からお前は俺の弟な、ブロリー!」
「あーぅ?」
何年たっても一人称なおらねーなぁー
と、まぁ、そんな感じに惑星ベジータを飛び出して早6年。
俺は11才、ブロリーは5才になりました。
なのですっかり俺ってば二次性徴迎えちゃってまして、幼いながら発育結構イイみたいで出るとこ出て引っ込むところ引っ込んだナイスバディ?ってのを見事ゲット〜・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、正直うれしくねぇ
いくら俺がボイン(死語)でも、自前のモノじゃぁ触っても楽しくねーし嬉しくもねーんだよ。
つか胸なんか無駄にでかくて邪魔だし。
前世じゃぁD以上のカップが好きだったけど、ごめん。
でかいとこんなに苦労あるのな。
ただ一つだけ運がよかったのは、前世で彼女が言っていた月に一度の苦痛。
『あれ』がどうやら戦闘民族なサイヤ人は周期が長いらしく3か月に一度だし、負担もほとんどないんだな、これが。
いやぁ、ラッキーラッキー。
・・・・・・・・流石に初めての時はビビって失神したけどな。
ま、今となっちゃいい思い出よ。
ああ、そうだ。
俺の弟になったブロリーなんだけどな、最初はやっぱりサイヤ人の男児ってこともあるのか結構な暴れん坊だったんだ。
うん、だった、って過去形なんだよ。
実は惑星フリーザを脱出してジャスト一年後、とある星で人買いに絡まれた時についつい油断しちゃってね、腕に抱いていたブロリーを落っことしちゃったんだよ。
頭っから真っ逆さまに、ごんっと。
そりゃもう見事に、ごんっと。
さすがに頑丈が取り柄のサイヤ人とはいえ赤ん坊じゃマジやべえと思い、ちょっと本気になって人買いは瞬殺。
急いで近くの診療所に運び込んで診察してもらえば、頭部に一生ものの傷を負いはしたけど命に別状はないと。
で、次にブロリーが目を覚ましたらあらビックリ、なんかめっちゃ大人しくなってました、と。
いやー、驚いたね。
オシメ変えるだけでぶんぶん飛んできた拳や足がぴたーっと止まった。
口に合わない離乳食を、ちっこいくせにいっちょまえな気弾でチリにしたりすることもなくなった。
すっかり性質の大人しい良い子ちゃんになってくれて、ほんっとう育てやすかったです。
「って俺、なに母親の気持ち体験しちゃってんだよ、おい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「ああ、なんでもない。ただの現実逃避だ、現実逃避」
「げんじつとーひ?・・・・・・・・それ、おいしい?」
「あー、おいしくはねーなぁ」
こてん、と首をかしげるブロリーの頭をなでなで。
そしてそのまま両脇に手を伸ばし、胸に抱いた。
(はー・・・・・癒される。お子様体温ってなんでこんな落ち着くんだろ?)
・・・・・・・・・・・・・・・・・なんて、また現実逃避しかけたけど、もういい加減現実を認めたほうがいいかな。
はい、俺ら今ブラックホールの目の前でっす
(ちっ、センサーぶっ壊れてる船売りやがって、あの商人今度会ったらぶっ殺してやる・・・・・)
内心で毒づきつつも頭は現状の解決策を探るべく目まぐるしく回転中。
(船の推進力にすべてのエネルギーを集めても、ブラックホールの吸引力からは逃れられない。外に出て気功波ぶっぱなしても無理。俺とブロリーが単体で脱出はバリヤーを張ればどうにかなるだろうけど、近くの星までもつかわかんねぇ・・・・・・)
ちらり、と視線をこのあたり一帯の地図に向けてみるけど、どこもかしこも生き物の住んでない屑星ばかり。
かろうじて生き物の住める星は、ここから宇宙船を使っても二週間の位置だ。
前に寄ったた星なんて別の銀河だし。
そもそもブラックホールの吸引力はマジで半端ねぇし。
つい最近できるようになった超化だって、まだそんな長時間は無理だしな。
てかブロリーの場合、下手すれば加減が利かなくなるし。
(まぁぶっちゃけ、マジな危機ってやつ?あー、俺の命もここまでか・・・・・・・・・・・・・・)
「・・・・・なーんて、誰が諦めるかってーの!」
「?」
「ブロリー、おまえちょっと行って荷物纏めてこい」
「ん」
こくりと可愛らしく頷き、ててててっと駆け足でブリッジから出ていくブロリーを見送る。
で、俺はパネルを操作し発信していた救難信号を消し、この船で暮らしていた間のパーソナルデータをデリート。
そしたらぴぴぴぴっと電子音が鳴りだしたけど、これってアレか?
危機回避センサー?
・・・・・・・・・・・・え、今頃発動ですか?
・・・・・・・・・・・おせぇし。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」
ふっかぁぁいため息をつき、しばらくの沈黙の後意識を完全に切り替える。
(しゃぁねぇな、まだ完全じゃねーがここはやっぱ瞬間移動、使うしかねぇな・・・・・)
前世でまだがきんちょだったころ、憧れて夢見て使えたらいいなと思った技の一つ。
ブロリーと二人、宇宙をさまよってるうちにその使い手と相まみえること数度。
悪用されるわけにはいかないからとコツは聞けなかったけど、二度見れば大体は分かる。
だからどうにか使えはするんだけれど・・・・・・・
「成功率が4割って・・・・・・・・・・・・・なぁ?」
今回ばかりは失敗イコール命取り。
変な所に出たらアウト。
辺鄙な所に出たらアウト。
移動できなかったらアウト。
ていうか、ブラックホールのエネルギーが邪魔して嫌な予感バリバリだぜ。
「・・・・・・でも、それ以外俺たちが助かる方法なんてねーしなぁ」
小さくため息をこぼしながら目を閉じた。
「ー、準備できたよ」
「・・・・・・ああ、じゃあこっちおいで」
「はーい」
小さな体に不似合いなどでかい荷物を背負ったブロリーを傍へ呼び、再び胸に。
「じゃー、今からちょっくら空間飛ぶからよ、しっかりしがみついてな、ブロリー」
「ん」
ギュッとしがみついてくるブロリーを更に深く抱え込み、静かに目を閉じる。
感覚を研ぎ澄ませ、意識を遠くへ遠くへと。
(・・・・・・・・・うー・・・、ブラックホールめぇぇぇえええぇぇ・・・・・空間ぐちゃぐちゃじゃねぇか!)
ぐぐぐっと眉間にしわが寄る。
確かにさ、ブラックホールがあほみたいにエネルギーが集まった混沌の渦だって知ってたよ?
こんな間近に見たことなかったけど、とにかく面倒この上ないもんだって、絶対に避ける災厄だって知ってたよ?
だから避けるべく宇宙船にはセンサーを絶対搭載だって、あらゆる星で義務ずけられてるってのに……。
(・・・・・・・・・・・・・・・・ぁんの商人め・・・・見つけ出して絶対滅す)
湧いた怒りを気力に回し、意識をさらに高め・・・・・・・・・
「行くぞ」
一瞬の浮遊感。
その瞬間、俺たちはブラックホールを目の前にした宇宙船の中から姿を消した。
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