深夜、父さんも母さんもすでにお休みしている現在。 またもや俺は胸騒ぎに飛び起きました。 ヤーモンなんてびくびくして俺に張り付いてるし。 「・・・・・・ヒカリ?」 ふと脳裏に浮かんだのはヒカリの顔。 思わず名前を呟けば、まるでそれに答えるかのようなタイミングで何かが壊れる音。 『わぁっ』 そして聞こえたのは、ヒカリの声。 続いて下の方から何かが潰れるような、鈍い音が聞こえ、タイ兄のヒカリを呼ぶ叫び声。 「おいおいおいおい、なに、始まっちゃってんの・・・・?」 明らかな異常事態。 だというのに何故か両親が起きる気配がない。 「どうするべき・・・・ヤーモン?」 少し前に誓った『傍観』をさっそく破るしかないかと考えた瞬間、腕の中にいるヤーモンの様子がおかしい事に気付いた。 「ヤーモン、おいヤーモン、どうしたんだっ・・・?」 「・・・・ぅ・・・・、なんか、あつい・・・・」 ぐぐっと何かをこらえるように、身を縮こまらせているヤーモン。 外の様子も気になるけれど、ヤーモンの状態も気になる。 どうすればいいのか迷うけれど、今のヤーモンは放っておけない。 (・・・・・・・・そうだ、デジヴァイス) 何故か分からないけれどそうするのが正しいと感じ、ヤーモンをベッドへおろし、影に収納していたデジヴァイスを取り出しヤーモンへと向ければ・・・・・・ 「・・・・おぉ・・・・すっげ」 「・・・・ふぇ、進化した・・・・・?」 ヤーモンに体が生えた。 ・・・・・・・や、ホントに。 自分が進化したことに驚いた様子のヤーモンは、さっきまでの苦しそうな様子はない。 それに一安心しつつ、思い出したもう一つの心配ごと。 まじまじと自分の手を見下ろすヤーモンをそのままに、ベランダへと駆け寄り外を見下ろす。 「うぁ、車ぺしゃんこだ」 なるほど、さっき下から聞こえた音は車が潰れる音か。 じゃあその前にした音は何だと、なんとなく視線を八神家の方へ向ければ・・・・・わぉ。 こっちもぐちゃぐちゃだ。 (・・・・・・・つまり八神家にいたデジモンが外へ飛び下りた、と。) 八神家の壊れたベランダと潰れた車は同じ線上にあるから一目瞭然。 そして壊れる音が聞こえたヒカリの悲鳴とタイ兄の叫び声から、ヒカリはそのデジモンに連れ去られたか付いて行ったか・・・・。 ふと、頭上にまた昨日感じた感覚。 見上げれば星の浮かぶ夜空だけど、何故か俺には分かる。 これは・・・・ 「ゲートが・・・・開く・・・・・」 そう呟いたとたん、空から白い何か・・・・・卵? が現れ、一瞬にして生まれた・・・・鳥? 「パロットモン!」 「え、ってヤーモン、それってあいつの名前か?」 「ああ、っていうか、オレはもうヤーモンじゃなくてインプモンだよ!」 「? そっか、インプモンか、分かった」 もう混乱は引いたのか、少し照れくさそうなヤーモン・・・・じゃなくてインプモンが俺の横に並んだ。 「あいつはパロットモン、完全体のデジモンだ」 「完全体ってのは?」 「さっきまでのオレは幼年期、進化した今は成長期、次に成熟期が来て、その次が完全体。」 「つまり?」 「全部が全部ってわけじゃないけど、あいつは結構強いヤツで・・・・・なんでここにいるんだ?」 「ゲートが突然開いて、現れたあほみたいにでかい卵から出てきた」 「はぁ?」 とか話してたら、飛んでいたパロットモンは俺の所からじゃ見えない所に行ってしまった。 さてどうしようかと思った瞬間、空中を横に走った雷光、続いて爆発音。 更には何か大きなものたちが争うような戦闘音が聞こえ、どうやらパロットモンは何かと闘っている・・・・・もしかして八神家のデジモンと? そういえばヒカリとタイ兄は・・・・・まさか とっさにインプモンの手を掴み(進化したからもう今のオレじゃ抱えきれないのが少し残念)、目の前に影を大きく展開。 「え、ちょ、!?」 慌てるインプモンを余所に、そのままオレは影へと飛び込み・・・・出た先は大きなデジモン達が戦うのを一望できるマンションの屋上。 テレパシーの次はテレポートまで出来ちゃうのかよ、てかなんで出来るって思ったんだよ、なんて疑問は心の奥底に。 視線を彷徨わせればすぐに見つける事が出来た八神兄妹の姿。 「なんであんなところに!?」 「今度はグレイモン!?」 大きな恐竜みたいなあれはグレイモンと言うらしい。 今はパロットモンと取っ組み合いのような戦いをしているが、その後ろにある歩道橋の下にいるヒカリとタイ兄は何をしてるんだ!? 「あんなところにいたら巻き込まれてしまうっ!」 もう一度さっきの影の移動が使えないかと思った矢先、 「っヒカリ、タイ兄っ!!」 パロットモンの放った電撃で吹き飛ぶグレイモン。 その先は危惧した歩道橋で、思わず屋上から身を乗り出し手を伸ばそうとするが、あたりまえなことに届きはしない。 「、危ないよ!」 「分かってるっ、けど、二人が・・・・・」 オレを心配するインプモンの声に何とか冷静さを取り戻せば、僅かに聞こえる二人の声。 慌てて探せば二人は上手いことグレイモンや瓦礫から逃れたのか五体満足。 「・・・・・・よかった・・・・」 「、まだパロットモンが!」 「そんなっ」 視線を向ければ頭の触覚? みたいなところが電撃を発しており、今にも攻撃を繰り出そうとしている。 「インプモンっ!」 「任せろ!」 咄嗟に口に出たのは、相棒の名前。 「ナイト・オブ・ファイヤー!」 インプモンは指先に赤い炎の弾を複数生み出し、パロットモンへと目掛け放った。 そして着弾したそれはさほど相手にダメージを与えたとは思えないが、意識をそらすことには成功したようだ。 この隙にタイ兄たちが逃げてくれれば、と思っていたら、聞こえてきたのは・・・・ヒカリのホイッスル? 「あいつら、なにやってんだ!?」 ホイッスルの音に、こっちに意識が向いていたプロットモンは再びタイ兄達の方へと意識を戻してしまった。 何か目的あってのことか? 何の考えもなしだったら、流石に俺も怒るからな! とか、インプモンも考えてるんだろう、不機嫌そうに舌打ちしてる。 もう一度攻撃して意識を完全にこっちに向けたほうがいいか悩んだが、ありがたいことにプロットモンは攻撃の意思を若干緩めた様子。 「・・・・インプモン、少し様子を見よう」 「ああ・・・・・って、グレイモンが目を覚ました!」 「ぇえ!? もしかしてタイ兄それが目的!?」 天に向かって雄たけびを上げるグレイモン。 まさかこんなに早く目覚めるとはとでも思ったのか、プロットモンは驚き固まっているけど、それが大きな失敗だった。 グレイモンが口から放った破壊光線的なモノをまともに食らってしまい、それでもなお放たれるそれは直視できないほどの強い光を発する。 「!!」 と同時に、再びゲートが開く気配。 とっさに近くにいるインプモンに抱きつき、 そしてどれくらい・・・・いや、ほとんど数瞬の後、ゲートの気配も無くなっているのを確認して影を解除すれば、今までの騒ぎが嘘のような静けさが。 「終わったの、か・・・・・」 「・・・・なんだったんだ、いったい・・・・」 凄い疲労感があるのだけは間違いない。 下の方ではヒカリが、えーと『コロモン』とか叫んでるんだけど、誰それ。 え? コロモンってのは多分さっきのグレイモンの進化前のデジモンだって? なんで新しい名前教えてないんだろ。 「つか、もう流石に眠い・・・・」 「オレも、進化した矢先にこんな色々・・・・疲れた」 「ヒカリとタイ兄は・・・・・まぁ、もう危なそうなのいないし大丈夫だろ」 ああ、もう空が明るくなってきちゃってるよ。 「・・・・・・・帰ろっか」 「・・・うん」 足下に意識を向け、俺の部屋へと続く影のゲートを開きくぐりぬければ、もう、無理。 オヤスミ、明日まで起こさないでね |