「うおー!すっげぇ人だかり!」

「はいはい」


 自然の驚異に巻き込まれ、這う這うの体(精神的に)で到着したところはドーレ港というところ。

 ここから各自試験会場へと向かうようで、私たち以外の受験者たちがひしめき合っていた。


 私は前世で海外にもちょこちょこ行っていたから外国人に対してそこそこ免疫があったのだけど、ハンゾーは本当に初めて。

 髪の色も目の色も肌の色も骨格も、ジャポンに住む民族とは違う。

 言語は世界共通語があるためどうにかなるが、雑踏の中耳を澄ませば聞きなれない発音もちらほら。


 ジャポンの中では外国人が少数だったけど、今はその逆。

 ほんの少し落ち着かないと感じるのは、やっぱり私がビビりだからだろうね。



「ハンゾー、もういいだろ。試験会場へ向かうぞ」

「おう!バス乗り場探そうぜ!」

「・・・・・・・・・・・・・おう」



 私が記憶している通りだと、たしかザバン市は今外部からの交通機関がすべてシャットダウンしていたはず。

 でも今いるここは現実だ。

 もしあの漫画と同じように事が進むのならこの試験はある程度どうにかなるけど・・・・・・・・とりあえずあまり知識には頼らず行ってみよう。






セーブポイントが欲しい今日この頃








 バス停に到着すれば、そこには一台のバスが停まり受験者たちがぎゅうぎゅう詰めになって乗車していた。

 明らかに定員オーバーなそれは、若干車高が低くなっているように見える。


「あー!ちょ、なんだあの満員具合!俺ら乗れねーじゃん!」


 騒ぐハンゾーを放って、とりあえず私は時刻表を確認。

 どうやら一時間に一本でザバンへ向け出発するらしい。


(交通機関が残ってる?いや、それだとかなりの人数が受験会場に到着してしまう・・・・・・・・・私の知識は中途半端だし・・・・・・)


 もう少し物覚えの良い頭だったらよかったのに、と思うけど、まぁ仕方ない。


(・・・・・・・・・・・・・・・・・あ)


「ハンゾー、あのバスは罠だ」

「へ?」

「よく考えてみなよ。船に乗った段階で試験は仮スタートしたと聞いたのに、港に着いてからその先楽な方法でザバン市に行けるなんて違和感ないか?」

「あー、そういえば。・・・・・・・・でもよー、もしあれに乗ってすんなり行けたらどーすんだよ」

「・・・・・・・ならハンゾーはあれに乗ればいいよ。私は別の方法を探す。」


(いっそ試験受けずにこのまま適当な国に行って就職してのんびり一人暮らしでもしようかな。)



 あたふたするハンゾーに背を向け、一本だけ伸びる道に沿って歩き出しつつ考えるのは、やっぱりチキンな考え。

 一応愛用の刀を持ってきているから、天空闘技場あたりでそこそこ稼げばしばらくはどうにかなるし。

 後は私の能力をフルに使って危険人物に近付かなければ、一生安泰かな。



 ・・・・・ああ、私の能力ってのはね、対象のステータスを読み取る能力なんだ。


 危険は全力回避スペクタクルズって名前なんだけど、大まかな効果は某ゲームのスペクタクルズやライブラと同じ。

 具現化した眼鏡をかけてレンズ越しに相手を見ることで、対象の体力や念の総量や攻撃力防御力その他いろんなステータスを数値化して見ることができるんだ。

 ただ相手の情報まるわかりになる能力だから、その分いくつかの条件が必要になるんだけどね。


 まぁ、これで相手の強さを見て私が敵うか敵わないかはっきりするから、後は私の逃げ足が相手以上だとオールオッケー。

 相手のスピードが私以上だったらアウトだけど、これでも小さい時から逃げ足に重点を置いて鍛えてきたから、どうにかなると思うし。


 ・・・・・・・・・・・囲まれたり挟み撃ちにされない限りは。

 もしくは能力発動の条件クリア中に攻撃されなければ。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで逃走用の能力にしなかったんだろ・・・・・・





「おい、ちょっと待てって!!」


 頭の中で色々と考えつつ足を進めていたら、どうやらバスは諦めたらしいハンゾーが追いかけてきた。

 立ち止まらず視線だけをハンゾーへ向ければ、憮然とした表情で私をねめつけてきたからデコピン一発。


「あだっ!!」


 そしたら大げさにすっ転ぶものだから、呆れて思わず足を止めた。


「ハンゾーって何でいつもそんなオーバーアクションなんだよ」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ痛ぅ・・・、お、おっ前はっ、いい加減手加減を覚えろ!!」

「はぁ?何言ってんのさ。私より逞しい体つきしてるくせに。嫌味?」

「嫌味って・・・・細身のくせして馬鹿力のお前の方が嫌味だろうが、それ!」



 ・・・・なんでハンゾーって、いつもこんな微妙な嘘言うんだろ。

 正直な所腕なんて私の二倍はあるし、剣の腕があるといってもそれはスピードで補ってる物。

 生まれつき筋肉がつきにくいのか受側としては理想的だけど、私はマッチョ好きだからちょっと寂しいものがある。


 まぁ、小さい時は私の方が強かったけど(むやみに突っ込まず冷静に相手すれば同じ子供同士でも頭脳が大人な私の方に軍配が上がる)、 中学生あたりからは随分と手加減してくれるようになってね。

 たぶん本格的に忍者として修業を始めたから、私みたいな一般人に本気だしちゃいけないとかじゃないかなーと考えてるんだけど、そこんとこどうなんだろう?

 聞きたいけど、忍者って秘密主義ってイメージだからさ。

 まぁ、今のところ私に実害がないから、とりあえず保留ってことで。



「ほら、とにかく立ちなよ。ひとまずザバン市に向かおう」

「・・・・・・・だけどよ、バスはトラップなんだろ?」

「なにも乗り物に乗って行こうとは言ってない」

「お前・・・・・・・・まさかっ!?」

「ジョギングがてら走って行くぞ」


 小さい時から逃げ足を鍛えるため走りまくっていたおかげか、今の私の趣味の一つとなったジョギング。

 どうせ最初の試験で長距離走するって分かってるんだから、その前に軽いウォーミングアップくらいしておきたい。



「ひ、一つ聞くが、まさか全速力で行くなんてことは………」

「ジョギングとは軽いランニングのことだぞ?全力で走ったら途中でばててしまうだろうが」

「だよなぁ」



 あからさまにホッとするハンゾーに首をかしげ、まぁいっかと呟きつつ軽く屈伸。

 足首も途中で捻ったり攣ったりしないようにしっかり解し、準備完了。

 ハンゾーの方も軽い準備運動が終わったのを確認したら、方角を確認。



「よし、じゃあ行こう」

「おうっ」



 地面を軽く蹴り私たちは走り出した。








 そして、2時間後。






「ザバン市にとうちゃーく」

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ・・・・っ飛ばしっ、すぎだっ、てのっ・・・・・・!!」


 息を切らしたハンゾーの横、私は息一つ乱さず掻いてもいない汗を拭う素振り。


 うん、よし。

 逃げ足だけはちゃんとハンゾーを上回ってるな、私。

 力ではかなわずとも、逃げ足だけでも鍛えておけばどうにかなるはずと頑張ってきたかいがあった!



「さぁて、とりあえずは会場探しの前にお腹を満たさないか?ハンゾー」



 よくよく考えてみれば昨日の夜にご飯を食べて以来何も口にしていないことに気づき、そう言いながら振り返ればハンゾーはまだ肩で息をしていた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・あー、



「そこの店で一休みするか」



 ちょっと早く走りすぎたかな、と頬をポリポリ掻きながらそう言えば、苦しそうな息継ぎしながら頷くハンゾー。

 流石に罪悪感が湧き背を撫でてやったら、小さく感謝の言葉が帰って来た。


 そしてそのまま足下が覚束ないハンゾーを引っ張りながら入ったのは定食屋。

 名前が「ごはん」だなんてそのままなお店だなぁと思いつつ入店し、軽いランチを注文。


 席についてしばらく、注文したものが出される頃にもなればハンゾーも大分落ち着いてきた様子。



さんよ、あれはジョギングとは言わないぜ・・・・・・・」

「うん、まぁ、ちょっと途中から飛ばしちゃったけど、全力疾走はしてないよ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれで?」

「?」

「普通な、あの距離を2時間で移動なんて不可能なんだよ。小さい時から鍛えてきた上忍である俺だから、何とか付いて行けたけど・・・・・」

「私がハンゾー達と違って走ることに重点を置いて鍛えてきたからじゃないか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・ちなみにジャポンにいるときどれくらいの頻度でどれくらいの距離走ってたんだ?」

「あー・・・・・・・、とりあえずほぼ毎日早朝に起床してすぐ裏山を走り回ってたな。休みの日はデートの予定が入ってなきゃジャポン巡りでうろちょろしてたし」

「・・・・・・たまにもらってた土産って、もしかしてそれのか?」

「ああ」

「・・・・・・俺はてっきりバイクでうろついてるって思ってたんだが・・・・・・」

「バイクで移動することもたまにあったけど、8割は走ってる」



 男として生まれ変わってから、昔から夢だった超大型バイクはジョギングに次ぐ私の趣味の一つ。

 車の免許も持ってはいるが、やっぱり肌で風を感じることと、自分の足で走るのとは違うあの感覚はやっぱりやめられない。



「・・・・・・・・・・・そんだけ走ってればお前の脚力にも納得だな」

「唯一の自慢だからな。(逃げ足の)速さでは誰かに負けるわけにはいかない(じゃないと私は弱いから殺される)

「負けるわけにはいかないって、お前に勝てるようなやついるのかよ」

(万が一やばい連中と出くわしたらって考えると、なぁ?っていうか今のところ遭遇したことないけど、この世界に私より早い奴なんて)たくさんいる」

「!誰だよ、そいつ!?」

「ハンゾーは知らない」

「・・・・・・ジャポンの人間か?」

「違う」

「どこで会ったんだよ」

(流石に前世に紙面越しに、なんて言ったら頭心配されるからなぁ。とりあえず無難に)内緒だ」

「・・・・・・・・・・・・」

「ってかいい加減食事に集中したいんだけど?」

「あ、あぁ、わりぃ」



 なんか急に悩みだしたハンゾーに首をかしげつつ、私はすっかり冷えてしまったランチを片づけることにした。













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