俺には幼馴染の親友がいる。

 名前は

 ジャポンでも屈指の名家に生まれた、本来なら俺なんかが隣に立つことさえ許されない立場の人間だ。






天は時に二物も三物も贔屓する    ハンゾー視点







 俺との出会いは、友人という立場につき武家の坊ちゃまの護衛をせよと命じられたのが最初だ。

 忍の一族に生まれ、それこそ物心つく前から暗殺者として育てられた俺の初任務としてはまぁ、妥当な任務。

 しかも家と言えば剣術では右に出るものなし、政治の世界においては何人もの高官を輩出してきた名家中の名家。

 まさしくジャポンが誇る由緒正しき家柄。


 本来なら捨て置かれる立場である五男坊も、この家ならばそこらの要人より立場は上ってーんだから、どれだけすごい家か分かるってもんだ。


 ・・・・・・・・まぁ、それで護衛が俺だけなら特に何か思うわけでもなかったんだけどよ、想定外だったのは上忍の護衛チームが影からつくと知った時だった。

 そんなに大袈裟な護衛なんぞ、普通なら時期家長である長男や、稀に次男。

 とてもじゃないが五男坊につける護衛の数じゃない、もしかしてなにかあるのかって勘ぐってしまったのは仕方のないことだと思う。




 そして事実、護衛対象である友人は只者じゃなかった。



 最初に対面したときは想定外の美少女っぷりに、まさかこれが大袈裟な護衛の理由!?とかちょっとときめいてしまったのは今じゃ一生の恥。

 すぐに五男、つまりだと気づき俺がどれだけ失望したか。


 なのでつい腹いせでそこらの餓鬼のようにちょっかい掛けてみたら、あっさりと返り討ち。


 え、ちょっとまって、俺これでも忍の卵。

 しかも他の連中より結構厳しい訓練受けた、将来有望って言われるエリートな俺。

 名家とは言え同い年な坊ちゃんに負けるはずなくね?

 俺も、影にいた上忍たちもそう思って再び勝負を吹っ掛けてみることを許可された。


 そしてあっさり負ける俺。


 この坊ちゃん本当にただの五男坊?


 当時の俺が持てるだけの力と知識を駆使し勝負を挑んでも、あっさり敗れること幾数回。

 ちょっとこれは卑怯だろ、と思うような技使ってもあっさり返り討ち。


 えぇえーーー!?と思ったのは俺だけじゃない。


 なので今度は普段の生活の様子を観察してみた。

 もしかしたら俺たちが護衛していないところで誰かに戦術を習ってるんじゃないかって思ってだ。

 だから丸一日張り付いてみた。



 朝五時起床。

 寝起きとは思えない動きで着替え、寝具を片付け(良い所の坊ちゃんにあるまじきことに、全部自分でこなしてた)、広い屋敷の人通りが少ない道を選んでいるのか誰ひとりすれ違うことなくジョギングを。

 俺は屋根から見ていたためそれほど動かずすんだが、実際にあれを走ると相当鍛えられそうな道ばかりだった。

 七時、大広間に集まり肩が凝りそうな朝食を、他の兄弟連中が緊張しつつ取っているにもかかわらずは淡々ととっていた。

 どうやら神経は相当図太い様子。

 八時、五歳児のくせして外で遊ぶこともなく部屋で読書を始める。(読んでいた本は本格的な武道について詳しく書かれたものだった)

 九時、人気のない裏庭に移動して体を動かし始める。

 その動きは直前まで読んでいた本に書かれたそれを忠実になぞったものだと後に判明。

 十二時、再び息がつまりそうな食事を我関せずといった様子で黙々と。

 十三時、自室に帰り瞑想を始めた。やはり五歳児として異様。

 十四時、当主に呼ばれ直々に指南を受ける。上の兄弟たちが非常に悔しそうだ。

 十七時、やはり幼いためか早々部屋に返される。が、再び朝と同じコースを走り始めた。

 十八時、今度は家族のみの夕食の席で、やはり淡々と片付ける

 十九時、部屋に帰り何をするのかと思っていれば筋トレ。

 二十時、風呂でゆっくり身を休めたかと思いきや、部屋に帰り早々に柔軟を始めた。

 二十一時、就寝。



 とりあえず体を動かすのが好きらしいと判断。

 だけど忍者のたまご連中に比べれば、それほど濃い内容ってわけでもない。


 しばらくその後も入りついてみたが、やはりさほど内容は変わらず。



 結果、の身体能力やらなんやらは全て、天性の資質によるものが自身の努力によって頭角を出しているものと判明。

 俺も同胞の中じゃ相当な素質を持っていると忍頭に言われたことがあるが、はそれ以上とのこと。



 俺より修行しているわけでもないのに俺以上に強いに、相手が護衛対象だと分かっていてもムカついた俺はそれから幾度となく勝負を挑んだ。

 どんな些細な事でも対戦を挑み、その全てに敗れる。


 それはいつしか、俺の中で絶対的な壁となって目の前にそびえ立つようになった最大の目標。

 いつか絶対に勝ってやると意気込み修行をそれまでの倍以上にもした。


 ・・・・・・・なのに、気づけば差は広がるばかり。



 身体が整い始める中学生あたりからは、もうはっきりとした差がそこには存在した。

 言うなればそれは歴然とした格。

 いくら修業を積み鍛錬をこなし自身を苦境に立たせようとも、素地から違うものに勝てるはずもない。


 天は二物を与えず、なんて言葉が笑えるくらい、は別格だった。


 そうなればもう追いつこうなんて思えない。

 どれだけ頑張ろうが、追い付けるモノと追い付けないモノがあるのだと、俺はに学ばされた。



 ただ、追いかけるくらいはさせてもらうけどな。


 嬉しいことに、どうにかこうにかについていこうと努力した俺は同胞の中でも上位に位置され、本来なら喜ばれない護衛対象と友人関係を築くことも許された。

 中学卒業までだが、その隣を普通の学生として過ごすこともできた。

 卒業してからも、なにかと会うことも許可された。


 本当に普通の友人として付き合うことが、許された。



 おそらく最終的に俺は、この最強な友人に仕えることになるんだろうとさえ、思っていた。


 なのに




「暗殺・・・・・・ですか」

「正確にはそのフリ、じゃな」

「いったいどういう・・・・」



 ある日唐突に下された命は、その友人の暗殺、のフリなんてものだった。

 なんでも、あまりにも優秀すぎるその存在が邪魔なのだとか。

 中学二年で打ち立てたジャポンで五指に入る剣の腕。

 その後実の父すら軽く圧勝した武道の腕。


 頭脳の方でも申し分なく、更には容姿の面で恨みつらみが多く暗殺依頼が後を絶えないのだとか。


 筆頭は後継ぎとしての面目丸つぶれの長男、続いて次男三男。

 数多くいるのは、の容姿に惹かれた女性たちに振られた連中。

 あれで結構女遊びが激しく、の兄たちもその被害にはあっているらしい。



「しょーもな」

「そう言うお主も惚れたおなごを取られた口じゃろうて」

「そ、それは・・・・まぁ・・・」



 清楚でお嬢様という言葉がピッタリな女性に惚れたのを最初に、幾度となく俺が惚れた相手がへと流れていくのを恨んだりもしたのは事実。

 だけどすぐに、彼女たちの裏の顔を見て引いたのも事実。


(清楚なお嬢様がの前だけで、他ではSの女王だなんて夢ぶち壊しもいいところだったよなぁ)


 それ以降も、やはり意中の相手とそれ以外の前では態度がころりと変わる女性を目にしてきた俺としては、密かに苦手意識が芽生えてしまってるのも仕方ないかと思う。

 特に陰でこっそりの彼女の座をかけた女の争いなんて見ちまった日にゃぁ・・・・・・くわばらくわばら。


「で、何故フリなんですか?」

殿の腕はお主も知っておろう?」

「えぇ、まぁ、自分が知る限りあいつに実力で勝る存在は、ゼロですし」

「じゃろうてじゃろうて。正直儂にも心当たりはない。まったくなぜあんなにも強ぅおなりになったのか・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

殿は100億人に一人という才能の持ち主じゃ。武の才も知の才も持ちえる、まさに麒麟児といえよう。じゃが、それゆえに敵が多い」

「・・・・・」

「わしを含む各忍頭も、この国を支える御三家の方々も、殿には期待しておるのが事実」

「・・・・・・それは、まさか!?」

「さぁて、まぁ、なんにせよ今の段階では殿は非常に危うい立場。今後も暗殺の依頼は増えような」

「だからフリ、ですか?」

「うむ。」

「しかしフリとはどのように・・・・」

「否、半年後お主はハンター試験受けることになっておろう?」

「・・・・・・・・・まさか、一緒に受けろと?」

「うむ。殿とお主ならばいかに困難と噂されるかの試験とて心配はいらぬじゃろう。そして殿にはそのまま異国の地にとどまっていただければ、後はこちらがどうとでも出来る」

「それは・・・・・・・・国外追放ということですか?」

「否。時が来るまで国外にて潜伏してもらうということじゃ。我が国は幸いなことに国外との繋がりが希少。国外で多少騒がれることになろうとも国に入る前に消すことなど容易い」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 それは時が来なければ国外追放ということに変わりないのでは、とはさすがに言えなかった。


 もしここで俺が断っていたならば、下手をすれば少々表ざたになろうとも大がかりな襲撃が組まれる可能性が高いと分かっていたから。

 更に下手をすれば、国外に存在する忍以上の暗殺者へ話が流れないとも限らない。



 たかが女関係。

 たかが地位争い。

 たかが嫉妬。


 そんなもので親友の立場が左右されるなんて、馬鹿馬鹿しい以外の何物でもない。



 まぁ、あいつが女遊びを控えれば話は違ったかもしれないから、ある意味身から出たさびだとか思わないでもなかったが・・・・・。



 ・・・・・・・身も蓋もないからそこは突っ込まないぞ、俺は。





 とりあえず、そんなわけで俺はを試験に誘うことになったわけなんだ。








 半年後。




 やっぱりというかなんというか、嫌がりまくったに気づかれないよう勝手に試験に応募し、それを伝えた俺は奴から関節技をかけられまくったことをここに記そう。













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