約14年だ。
俺との付き合いは。
だから俺は他の奴らが知らないようなの顔を知っているし、またも俺の忍以外の顔も知っている。
それは友人だから見えるもので、親兄弟からは見えないものも血の繋がらない他人だから見えることも多々存在する。
その逆も然り、友人だから見えないものも存在したりするのだが、俺の場合それすら見抜く目を忍という職業から見抜けたりもする。
たとえば俺に対する態度。
たとえば親兄弟に対する態度。
たとえば学校の友人に対する態度。
たとえば遊びで付き合っている女の子たちに対する態度。
はそのどれもをほとんど無意識に使い分けており、器用に時と場合を選び変化もしている。
そのほとんどを俺は見てきたし、どれが本音かも見抜けるくらいには親しいと自負している。
だからが実は、すっげぇ面倒臭がりなことを知っているのは俺だけだったりする。
そしてそれ以上に、実は押しに弱い性格だってことを知っているのも俺だけだ。
つまり、ひたすら言い続ければどんなに嫌だと言っていることも、最後には折れて承諾してしまうことを知っていた。
友達で幼馴染で親友で悪友な間柄
ハンゾー視点
嫌がるをどうにか説き伏せ、俺たちは現在ドーレ港という所にいる。
最初は85股という恐ろしい数の股掛けを全ての彼女たちにバラすという脅しから始まり、恥ずかしい写真をばらまくとの脅しを辿り、ほぼ半日粘りに粘ってようやく陥落に成功。
押しに弱いと知ってはいても、まさかここまで粘るとは思っても見なくてジャポンを出立する頃にはすっかり疲れはてた俺。
なんだか今までしてきた無茶な頼みに比べ、えらいことねばってくれたことに僅かながら疑問を感じはしたが、まぁ諦めてくれたからいいとする。
とにかく後は会場と知らされているザバン市のどこかへ向かえばいいだけなんだが、それ以前に俺は別のものに目がいって仕方がない。
目が行くものそれは、ずばり外国人だ。
基本、俺の所の国民は黒髪黒眼がほとんど。
老人にでもなれば白髪が増えるし、最近若い連中が頭髪を染めたりすることが増えたためある程度は想定していた。
が、やっぱり実際は違うものなんだな。
自然な髪色でピンクとか水色とか初めて見たぜ、俺!
肌の色も白かったり黒かったり、日焼けや色白とは全く違うものだし。
骨格もやっぱり違う。
服装も大多数は普通のものだが、所々民族服なのか変わった柄やデザインのものが見えるし、外国に来たんだなーって感じだ。
……………だけど、美醜に関してはどこも同じみたいだ。
「ハンゾー、もういいだろ。試験会場へ向かうぞ」
同じ男でも分かる、美声ってやつ?
女からすれば腰に来るらしい声を持つそいつは、容姿もまたムカつくくらいに整っている奴だ。
さらさらと風に靡く髪は女もうらやむ艶を持ち、左右対称に配置された顔のパーツは文句なし。
筋肉がつきにくいらしく全体的に細身だが、僅かに見えるその肉体はしっかりとした筋肉に包まれしなやかだ。
やや大きめの目で幼く見えるが、それでも滲む大人の男特有の色気?ってやつで落ちる女は数知れず。
来るもの拒まず去るもの追わず。
貢がせることはあっても貢ぐことはない。
そんなについた通り名は孤高の王。
そこらの多少顔がいい奴についたものだったら笑っちまうような呼び名だが、ムカつくことにの場合ピッタリな感じがして笑うに笑えねぇ。
まぁ、女たちが傍にいない、普通に友達として相手してる時はそんな空気全くないんだがな、こいつ。
普通にそこらの奴らみたいにはっちゃけるし、どつきあうし、笑い合う。
でもそれが家族の前とか親しくないやつらの前になると一変して近寄りがたい雰囲気を出し、口調もえらく変わるから不思議だ。
とりあえず俺には地を出してるみたいだから、ちょっと優越感とか感じてたりする。
相手は男友達だが、やっぱり特別、ってのは気分がいいもんだよな。
なんてこっそり浮かれてたら、俺としたことがウッカリを連発。
に言われるまでザバン市直行のバスを素直に信じたり、そのまま置いて行かれそうになったり。
(つうか嫌々なの連れてきたのにちゃんと試験に参加しようって、こいつなんだかんだで真面目だよなぁ)
なんて思っていたのがバレたのか、すさまじい威力のデコピンがデコに決まった。
「ハンゾーって何でいつもそんなオーバーアクションなんだよ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ痛ぅ・・・、お、おっ前はっ、いい加減手加減を覚えろ!!」
「はぁ?何言ってんのさ。私より逞しい体つきしてるくせに。嫌味?」
「嫌味って・・・・細身のくせして馬鹿力のお前の方が嫌味だろうが、それ!」
天然なのか、それともただのフリなのか。
こいつは何故か自分の力を下に持ってこようとする。
国でも五指に入る、下手をすれば右に出るものは無しとあらゆる達人から太鼓判をもらっているにもかかわらず自分はまだまだだと。
いや、向上心を無くさないためにそう言っているだけなのかもしれないが、とにかくこいつは変な所で卑下する。
そして突っかかってくる俺を適当にあしらう素振りでからかってくる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでこんな性質ワリィやつの親友やってるんだろ、俺。
「ほら、とにかく立ちなよ。ひとまずザバン市に向かおう」
「・・・・・・・だけどよ、バスはトラップなんだろ?」
「なにも乗り物に乗って行こうとは言ってない」
「お前・・・・・・・・まさかっ!?」
「ジョギングがてら走って行くぞ」
まさか、ついてこれないなんて言わないよな?
にやりと楽しそうに細められた目がそう言っている。
(こいつ、船で大人しくしてると思ってればこんなところで仕返しかよ!?)
「ひ、一つ聞くが、まさか全速力で行くなんてことは………」
「ジョギングとは軽いランニングのことだぞ?全力で走ったら途中でばててしまうだろうが」
「だよなぁ」
真顔に戻り当たり前のようにジョギングの説明をされて、ほっと息を吐く。
さっきのはただ俺をからかっただけで、そんな強行軍あるわけないよな。
そうだよ、受付終了までまだ日があるんだ。
おそらく試験前の軽い準備運動がてらでゆっくり走って向かうんだろうな、なんて安心したのがいけなかった。
まさか。
まさかのまさか。
徐々に速くなる目の前を走る背中に嫌な予感を抱きながらそう心の中でつぶやくも、気がつけば全力疾走。
ドーレに到着する前船の上で確認したザバン市まで、港からはかなりの距離があった。
バスなら丸一日以上かかるであろう距離。
しかも間は深い森に囲まれ、舗装された道路は森の横を通っていた。
つまり森の中は未開拓。
修行の一環として秘境に近い森の中でサバイバルの経験はある。
長距離を長時間走れるようスタミナもある程度つけている。
……そんな俺でさえ息を乱し、ついて行くのがやっとな道なき道をすいすいと何でもないように走るはさすが麒麟児。
どうにか息も絶え絶え、最後の方は妙な意地でくっついて行けば、まさかの二時間でザバン市へ到着。
すがすがしい笑みを浮かべ掻いてもいない汗を拭う素振りのは、無理やり連れてこられた憂さを晴らせてご機嫌な様子だ。
しかしあまりにも疲れ果てた俺の姿を見て哀れに思ったのか、引っ張られて入った先は定食屋。
俺は荷物から水筒を取り出し水を呷り、が注文したメニューが届くまで息を整えることに集中することにした。
そしてあまりにもあまりな仕返しに文句を言っていれば、帰ってきた言葉に唖然。
走ることに重点を置いて鍛えてきたって、そりゃたしかにこいつが結構暇を見つけては走っていることは知っていたけど、樹海と呼ばれる、毎年遭難者も出るあの裏山をジョギングコースにしていたとは、流石に思いもよらなかった。
てか屋敷内のコースからいつの間にそこまで進化したんだ!?
しかもたまにもらっていた土産物がジョギングコース・屋敷外のものだとは………。
「・・・・・・・・・・・そんだけ走ってればお前の脚力にも納得だな」
「唯一の自慢だからな。速さでは誰かに負けるわけにはいかない」
「負けるわけにはいかないって、お前に勝てるようなやついるのかよ」
冗談のつもりで口にした言葉だった。
こいつに勝てるような存在なんて、俺が知る範囲ではだれ一人として存在しないから。
なのにこいつの答えは・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・たくさんいる」
「!誰だよ、そいつ!?」
「ハンゾーは知らない」
「・・・・・・ジャポンの人間か?」
「違う」
「どこで会ったんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・内緒だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「ってかいい加減食事に集中したいんだけど?」
「あ、あぁ、わりぃ」
愕然とした。
そりゃ俺は中学卒業してから完全に忍としての仕事に就いたから、その前みたいにといることは少なくなった。
だけどにとって俺は特別で、それこそ知らないことはない間柄だと思ってたのに・・・・・・・。
しかもジャポンの人間じゃない。
いつ出会ったのかってなったら、多分さっき言ってた遠出の最中なんだろう。
だがそんなに強い存在なんて、入国した段階である程度監視がつくようになってる。
入国審査の場にいる同胞たちの眼は、それこそ相手のすべてを見抜くってほどに鍛えられたものだから、つまりはそれさえも掻い潜って入国した奴・・・・。
まさか、お前全部知ってるのか?
全部を知って、自分から国を出ようと色々手を回していたとか?
そこに俺が無理やり試験に誘ったから、あんなに抵抗したのか?
・・・・・・・・・・・・なにもかも疑ってかかる忍の習性が、今はすごく煩わしく感じられる。
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