黙々と注文したランチを食べている間、私は微妙なデジャブを感じた。



「いらっしぇーい!ご注文は?」

「ステーキ定食」

「焼き方は?」

「弱火でじっくり」

「あいよー!」



 不自然なほど滑らかに行われる注文のやりとり。

 メニューを知り尽くした常連なのかと最初思ったけど、何かが引っかかる感じに僅かばかり疑問が沸く。



「お客さーん、奥の部屋へどうぞー」



 続いてその客だけ何故か奥にある部屋に通されたことで、私の中の何かがそれに被った。


(・・・・・・・・・・私はこの光景を見たことがある?)


 生まれ故郷を出て初めて訪れた土地、初めて訪れた店のありきたりなやりとり。

 それがものすっごく引っかかるのは、どうしてだ?



 マナーが悪いがスプーンを口にくわえもごもごしながら記憶を探る。

 異様に大人しいハンゾーへと視線を向け、次に先ほどの客が入って行った部屋へ向ければ、



「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」



 そうだそうだ、思い出した。

 あまりにも昔の事だからすっかり忘れていたよ。



(この店、試験会場の入り口じゃん)






幸運なのか悪運なのか、それは誰にも分からない








 なんという偶然。

 っていうかどれだけすごい確立だよ、これ。

 適当に目についた店に入っただけのにさぁ。



「びっくりだよ」

「あ?」

「探し回る手間が省けたってことだよ」

「何のだよ」



 事前知識も何もないハンゾーにはさっぱり分からないのは当たり前。

 だから私だけ分かるこの幸運に思わず顔がにやけてしまう。



「ハンゾー、次から入店する客を注意して見ていなよ」

「あ?」

「ついでに店員の様子もな。結構面白いことが分かるから」



 疑問符が大量生産されてるハンゾーを余所に、私はコートの内側に手を入れこっそりオーラを練り具現化。

 そして、さも今までそこに収納していたという風にコートから手を出せば、水色のセルフレームの眼鏡がそこに。


 ついっと傷一つないフレームを指で軽くなぞり、慣れた動作で眼鏡を掛ける。



危険は全力回避スペクタクルズ・発動



 眼鏡をかけた状態でハンゾーへと視線を向ければ、レンズに映る数値化されたデータ。


(体力は94%まで回復したか。あ、でもストレス値が結構溜まってるな。なにかあったのかな?)


 フレームを指先でつつつ、と触れればそれに合わせてスクロール。


(ほうほう、総合レベルが前に見た時より上がってるな。あ、弱点が減ってる。へー、あれ克服したんだ。お、拷問のレベルが上がってるよ)




 ふむふむと前回のデータを思い出しつつ比べていれば、じっと見られていることに気づいたハンゾーがこっちを振り返った。



「…おまえ、ときどきその眼鏡かけてるみたいだけど、目、悪かったか?」

「いや。悪くはない。」

「じゃー、なんでかけてるんだよ」

「ファッション」

「・・・・・・・・そうかよ」



 なんだかあきれた様子で再び視線を外したハンゾーに、内心で苦笑。

 いったん目を閉じ意識を切り替えれば、もう視界に入るのは普通のレンズ越しの世界。



(まさかお前のステータスまるっと覗き見てました、なんて、まだ念も知らないハンゾーには言えないもんな)

(それはともかく、久しぶりの発動だったけど問題は全くなし、と)

(ハンゾーもとりあえず体力回復したみたいだから、そろそろいいかな)



「で、気づいたか?」



 ここが試験会場だと思いだしてから、なんだかんだで既に3人、奥の部屋へ消えていった。

 受験者の人数が人数だし、そりゃあ頻繁に部屋の向こうではエレベーターが何度も行ったり来たり。


 これで気づかない、だなんて諜報が得意な忍ではありえない返答。

 ニッコリ笑って確認すれば、驚いたような嬉しさが隠しきれないような変な顔。



「私たちは運がいいみたいだな」

「だなっ!」




 なんだかえらいことあっさり、私たちは試験会場へ到達することが出来てしまった。















 ちん、という軽い音と同時に開くエレベーターのドア。

 何気なく上を見たら地下100階の表示。



(99階までなにがあるんだろ・・・・・・・・・)



 なんて素朴な疑問を抱きつつ足を踏み出せば、一気に集まる複数の視線。



「おい見ろよ、今来たやつの片方、随分ひょろっちぃぜ」

「アイドルのオーディション会場かなんかと間違えたんじゃねーの?」



 ざわざわと聞こえてくる声のほとんどは、私を嘲るもの。

 まぁ、ある程度は想定してたし自分でも場違いだと思うから落ち込んだりしないけど。

 それに今着ている服も、私の細さを際立たせることを分かって着ているしね。


(てか腕モロ出しだし)


 タートルネックのカットソーに、細身のレザーパンツ。

 上からはこれまたレザー製の半袖コートを羽織り、オープンフィンガーグローブを装着。

 後は腰に少しゴツめのベルトに、首から下げた十字のアクセサリー、底に鉄板入りのブーツに、受験を受けるにあたって必要そうな道具を入れたベルトポーチ。


 と、まぁ、所々は微妙に違うけど、分かる人にはわかる私の服装。


 ぶっちゃけコスプレです。


 誰とはあえて言わない。(咎狗のシキ様)


 ただ、まさかここまでこの服装が似合うとは思わなかった。

 全身黒の8割レザー製なんて、似合う人間そうそういないよ。

 美形クオリティーってすげぇ、なんて思ったのはもはや何度目か・・・・・・・・。


 なんてちょっとナルってたら、近づいてくる気配が二つ。

 一人は、



「番号札です、どうぞ」

「どうも」



 豆みたいな頭の、本当に同じ人類?と思わず疑問を抱いてしまう、ハンター協会の番号札配りの人。

 293番と記されたプレートを腰のベルトに取り付けハンゾーの方へ視線を移せば、294番のプレートをオーソドックスな位置、左胸に取り付けていた。

 そしてそれにわずか遅れて来たのは、小太りのちっちゃなおっさん。


 ほんの少し、ハンゾーから警戒の気配。



「やぁ、君たちルーキーだろう?」



 人の良い顔で、親しげに話しかけてきたこの男は、えっと、もしかして原作にも出てた………えと、トンマ?

 あぁ、やばい。

 もう本当に前世の記憶があやふやだ。

 覚えてる限りを何かに書き記して、もし下手して誰かに見られでもしたらヤバいからって書いてこなかったのが、まさかこんな所で悔やまれるなんて・・・!


 っと、とりあえず一次試験はマラソン、二次は料理、三次は・・・・・・ロッククライミング?迷路?・・・・・・・・あ、なんかの建物の攻略だっけ?んで、四次は無人島サバイバル、ラストが一対一のバトルマッチ、だっけ?

 あとその後はゾルディック(このファミリーネームはある意味有名)にお宅訪問、天空闘技場(念が使えればある程度までならどうにかなるかなと思い、いずれ行ってみたいと思ってる)で念の修行、 その次は、えっと、ヨークシンシティで幻影旅団が大暴れ?だっけ?

 問題なのはそのさらにあと、どっかの国で何かの生き物がバイオハザード?でどえらい危機って所。


 幻影旅団も問題だけど、そうそう一般人が遭遇するわけもないし、今年一杯ヨークシンシティに近付かなければ問題ないはず。

 だけど後者はそうもいかない。


 たしか何かの生き物・・・・・・・・そうそう、蟻だ。

 その蟻があちらこちらへ散らばって、一般人も被害にあうって内容だったよな。

 んで、その後どうなるんだろ〜、って思ってたところで前世死亡。

 つまり、解決法がさっぱり不明。


 でも普通に考えるなら、主人公組がどうにかして平和、って流れだよな。

 ・・・・・・・・・・・漫画の通りに行けば、だけど。


 ・・・・・・・・・・・・・・あ、やべ、なんか鬱になってきた。

 ここは現実だってはっきり理解してるのに、漫画の流れを期待するなんてリアリストとして失格だ・・・・・・・・・。


 もっとはっきり話の流れを覚えてて、私が夢主人公みたいに超補正された能力とか持ってたらどうにかしたかもしれないのに。

 しかし現実は一般人よりそこそこ上、なレベル。

 念使わなかったら本当、駄目駄目。



 くっそぅ……美青年ってだけしか取り柄ないじゃん私・・・・・・・・・・・・!!

 女たらしのスキルしか磨けないって・・・・・・!!

 自分が見る分には問題ないけど、自分がホモになって掘られるor掘るなんて以ての外だし・・・・・!


 でも自分がモデルでの二次創作物は好きだけどね!

 やっぱり腐女子はどの世界でも腐女子!

 私が通ってる大学の腐女子の間で、私という存在がそーゆーことに使われてたりするって私は知っている。

 ハンゾーほど仲良くないけど、そこそこ話すそこそこ美形な友人とイヤンな関係の漫画とか小説とか、かなり売れてたりもするし!

 実は元彼女とか現彼女がこっそり持ってるそれを、こっそり拝借して私も悶えてたりするんだなー、これが。


 たしかに自分が使われてるって初めて知ったときは背中がむず痒かったりしたけど、割り切ってしまえば問題無し!


 本当にいいわー、BL。

 でも悲しいかな、私は今美青年。


 美形だけど実はオタ、なんて元腐女子としてはちょっと困りもの。

 ギャップ萌えー、とかも確かに思えるけど、正直そこまで私は好きくない。


 私が好きなのは、そう、王道!


 現在の私のような美青年の趣味として上げられるものは、知的なもの。

 読書とか鑑賞とか収集とか、そんな感じのもの。


 現実にはそんな男いねーよ、な感じのパーフェクト王子様(クールタイプ)。

 そう周りから認識されたいがため、私は頑張った。


 腐女子はその大半が、現実主義者だと私は思う。

 だって現実主義者じゃなかったら、生モノ・・・・・そこらの芸能人にキャーキャー言ってれば気が済むはずだし、その現実に理想がないから二次元にはまるのが腐女子。

 その腐女子たちが、実は心の底で求める二次元にしか存在しなさそーな美青年として見られたいがため、私は頑張った。


 って、まぁ要は私の自己満足だ。


 私が理想とする存在がいないから、私がその理想になるって、自己満足。

 ・・・・・って言っても、頭の中が変わらず腐ってるのはまぁ、仕方がない、と。


 ただこの世界に生まれてから誰とも腐談義したこともないし、作製・販売も収集もしてないって凄くない!?

 ただひたすら脳内劇場やら妄想で片付けられるようになった私って、本当に凄くない!?









 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、何の話してるんだ、私・・・・・。


 ふと我にかえり、意識を内側から外側に向けたら・・・・・・・・・・・・・・ん?



「す、すまない、余計なお節介だったな、あ、あははははは・・・・!」



 なんか顔を青くしてそそくさと去っていく・・・・・・・・・・トンマ?の姿。

 その片手には、缶。



(・・・・・・・・・・・ああ、そうだ、たしかあれ、毒かなんか入ってるんだっけ?)



 で、他者からの飲食物はオールNG(実はさっきまでいた上のお店でも何も口にしてない)のハンゾーにやろうとしたんだろう。

 だけど胡散臭い雰囲気のトンマ?に絶対の拒絶(殺気混)を向けでもしたのかな。


 ちら、とハンゾーを見やれば視線が合い、にやりとした笑みを向けられた。


 なので私も「おつかれさん」という意味を込めて苦笑をかえしてみた。





(ってか私には話しかけもしてくれないなんて、速効で落ちるとか思われてんのかなー、やっぱり)











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