そいつらが来たのは、受験者が300人に達する少し前の事だった。


 前回、前々回、更にはその前にも見ない顔に、その二人組はルーキーだと判断。

 一人はハゲの変わった服の男。

 まぁこのハンター試験はあらゆる地方から猛者が集まるから、服装なんざ特に気に留めるまでもない。


 もう一人は、全身を黒い服装で固めた、恐ろしいまでに美形な男。

 同じ男として認めたくないほど美形なそいつは、正直来る場所を間違えたとしか思えないほど、一人だけ浮いてて目立つ。


 だが、似合わないってだけなら他にも何人かいる。

 187番のニコルってやつなんざ、いい所のボンボンって主張しているような服装にパソコンまで持ってきている。

 あの自信に充ち溢れた様子から察するに、今まで誰にも負けたことなんてなかったんだろう。


 ……そーゆー奴ほど、陥れ甲斐があるってもんだけどな。



 一先ず今回最初の狙いは187番で、今着たルーキー二人には洗礼でもして様子を見ることにしようと足を進めた。






美形の男なんぞこの世から消滅してしまえ    トンパ視点








「やぁ、君たちルーキーだろう?」


 笑顔を貼り付け、人の良い受験者の振りをしてそう話しかければ、揃って振り向く二人。



(う゛っ・・・・・、近くで見たらこいつ※notハゲ本当に俺と同じ人間か!?



 なんかよくわからんが気押される!

 見えない壁ってのか、こう、次元が違う壁が存在してるってのか!?


 ・・・・・・・・・・・・・一先ず、ハゲの方から陥落させよう。



 意図的にキラキラしい男を視界に入らないように、視線はハゲに固定。

 そして口にするのはいい慣れたセリフ。



「俺はトンパってーんだ、よろしくな」

「よく俺たちが新人って分かったなー、あ、俺は半蔵。こいつはってんだ」



 ハゲがハンゾーで、もう一人がか。

 とりあえず笑顔でハゲのハンゾーの方に手を差し出したら、向こうも笑顔で握手をかえしてきた。

 だからその流れでもう一人、という名の男へも片手を差し出したんだが・・・・・・・・・・・・



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 無 表 情 で 見 下 さ れ た


 ヒクッ、と浮かべている笑みが引きつった。

 つつつ、と背を流れるのは冷汗。



「あー、悪いな。そいつ人見知りでよー、ハハハ!」

「そっ、そうなのか、それはすまない」

「んでよー、トンパさん?は、もしかしてこの試験何度か受けたことあるのか?」

「呼び捨てでかまわないよ。俺は10歳から35回もテスト受けてるからね、ルーキーかそうでないかは一目で分かるんだよ」



 なんとかから視線を外し、対照的に話しやすいハンゾーはある意味救いだ。

 随分と乗りもいいし、俺が何にも聞いていないのにべらべらと話してくるこいつは



(良いカモだな。こいつなら簡単に引っ掛かりそうだ)



 心の中でにやりと笑い、表面ではハンゾーの話を素直に聞いてるふり。



「ここだけの話だけどよ、俺忍者なんだよ。あ、忍者分かる?」

「ああ、確かニンポーとかいう技を使う集団だよな」

「おー!知ってるねぇアンタ!そうそう、その忍者!でさぁ、俺は『隠者の書』を探すためハンターになりてーんだ!どーやら一般庶民じゃ入れない国にあるらしいんでな」

「へ、へぇ」

「よかったよ、アンタが話かけてくれてよ! 相棒はほれ、見ての通りだろ〜?なのにここの連中は辛気くせーし」



 とやらが喋らないのは分かった、だがお前は喋りすぎじゃないか

 止まることのないマシンガントークは流石に疲れてきた。


 ようやく一つの話が終わったと思っても、再び始まる一方的な話。

 こいつは口から生まれてきたのか?

 なんて馬鹿みたいな想像が頭をよぎったり。



(こいつがこれだけ喋るからは無口なのか・・・・・?)



 まったく終わる気配もネタが尽きる気配もないハンゾーに、いい加減耐えられなくなった俺はどうにか割り込む区切りを探す。

 そしてようやくその機会が来たのはこの二人に接触してから10分後の事。



「そんじゃまぁ、お近づきの印だ。あんたも話しすぎて喉が渇いたろ?これ飲みなよ!」



 そう言って取り出したのは下剤入りのジュース。

 一口飲めば三日はトイレとお友達な強力なやつだ。


 このハゲの事だ、面白いほどがっつり引っかかってくれるだろうと、長話に付き合わされた鬱憤を笑顔に込め差し出した俺は、相手を軽く見てしまっていたようだ。


 缶を差し出したとたん、今までのマシンガントークが嘘のように口を閉ざしたそいつ。

 気安い雰囲気を纏っていたのに、がらりと変わったそれはまさしくアマチュアなんかじゃない、プロのもの。



「忍の習性でな、人からもらった飲食物は喉を通らねーんだ。悪いな」

「あ、あぁ、そりゃあすまんかったな」



 なんだ、俺が「新人つぶし」として悪評があると知って断ったわけじゃないのか。

 ならばもう一人は引っかかってくれるよな、なんて安直な考えで、下手に下心を出したのがいけなかったと後になって俺は後悔する。



「ならそちらさんはどうだ?互いの健闘を祈ってカンパイなんて・・・」


 相手に警戒を与えないよう下剤を入れていないジュースを目の前で飲み、の方へと視線を移せば・・・・・・・・



「!!」



 先ほどまでの無表情とは違い、浮かべられているのは嘲笑。

 水色のフレームに囲まれたレンズの奥、眇められた目は愉快な道化を嘲るそれ。


 しかしそれだけだったら、特に何も思わなかった。

 問題なのは、俺がそいつに視線を向けたとたんあふれ出た濃い気配。

 得体のしれないそれは、本能的な恐怖を呼び起こす。



―――――――― こいつは、ヤバい



 全身の血が引く音が聞こえた気がした。

 危険な存在だと、目の前の存在に下手に手を出したら己が命が危険だと、本能が叫ぶ。


 なのにまるで金縛りにあったかのように動けない身体。

 光のない漆黒の闇を凝固させたような瞳から逸らせれない視線。



 まるで蛇に睨まれた蛙のようだと思った。

 一瞬でも気をそらせば、次に待っているのは死、それだけだと。



 半ば自分の命を諦めかけた瞬間、ふ、と今まで重苦しかった気配が軽くなった。



(今を逃したらマジで命がヤバい!)

「す、すまない、余計なお節介だったな、あ、あははははは・・・・!」



 いつ気が変わって殺されるか分からない。

 そう思った俺はそそくさとその場を後にした。










 次からはもっと相手を選ぼう。

 じゃないと命がいくらあっても足りない。
















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