コツ、コツ、コツと、規則的に響く自分の足音。


 三百人以上いる受験者の足音にまぎれ、鉄板入りブーツなんてゴツいのを履いているせいか微妙に響くそれに気づいたのは、走り出して6時間が経った時だった。

 それは丁度マラソンが階段に差し掛かったあたり。

 ただでさえ長時間走ることで精神が摩耗してきているところ、とどめを刺さんばかりに彼方まで延々伸びる階段。


(こんな長い階段、ハンター試験以外で誰が使うんだろ・・・・)


 逃げ足を鍛えるため、持久力とスピードを生まれた時から徹底して鍛えてきた私にとってはちょっとした散歩レベル。

 なので、この通路が実家付近にあったら丁度いいマラソンコースとして使っていただろうなぁ、なんて考えたり。



「…ふぁ」



 流石に飽きてきた。


 誰かと話そうにも、ハンゾーは精神的な疲れが出てるらしく信じられないくらい大人しいし、他の見も知らぬ受験者は、もし話しかけて無視られたら心が痛い。

 話しかけても答えてくれそうな人なんて主人公組の誰かか、同じく暇してるヒソカくらいしか思いつかないけど、どちらも普通に却下。



 なんともなしに携帯を取り出して電源を入れてみたけど、どうせ圏外だろうなぁ・・・・・・・・って、お、電波立ってるジャン。


 カチカチと操作し(キーの操作音は消してる)、電源を落としてる間にたまっているであろうメールをセンターへ問い合わせする。



(・・・・・・・・・・・・・・・・・彼女達からのが483件、大学の友達からは45件、着信履歴は728件か)



 一応試験に参加すると(嫌々)決まった時に、家族には口で、それ以外にはメールの一斉送信で参加する旨を伝えたんだ。

 で、その後すぐいろいろと聞きたがる連中から連絡が来るだろうと予想し携帯の電源を切っていたのだけど・・・・・・・・・・・



(多すぎだし)



 あまり見ない桁の数字に少し遠い眼をし、彼女達からの内容はだいだい同じ内容だろうから全部消去。

 そして残った大学の友達からのメールを見て、暇をつぶすことにした。






漫画のように一コマで一晩、なんて都合のいいことは無い








 のろのろと文章を読み、返信も私には珍しくそこそこ長文で返してた。

 でもそんなに数もなかったため数時間もたてば再び襲ってくる暇な時間。


 ジャポンにいたときはウォークマンで曲聞いたり本読んだり妄想したりしてたんだけど、ウォークマンは来る途中の船で水がかかり故障。

 本はかさ張るから持ってくること自体諦め、妄想しようとしたら精孔緩みそうで怖い。


 ジャポンでは人通りがほとんどない山道を選んで走ってたから、今みたいに人があふれてたらどうなるか分からない。



 だから、私はいますっごい暇なんだよ。



(・・・・・・・・・・ただ試験に参加するだけじゃなくて、修行形式にしてみようかな)



 下手に体力使ってこれから先の試験で逃げるような事態になったら大変だと体力温存していたけど、この暇さは大問題だ。


 あまりにも暇すぎる。

 だからしょうがない。




 両足に、周りに影響が出ないようオーラを収束。

 走りながら、その勢いを殺さないようそれぞれのつま先を二度、ととん、と地面に打ち付ければ、



 ≪ 自由な不自由ランド・リッシュ ≫発動



 瞬間、両足が地面に吸いついたかのように重みを増した。



 これは、私が持久力とスピードを鍛えるために編み出した能力。

 系統が変化系なこの能力は、具現化系な私にとって比較的作りやすかった能力だ。


 効果は自身の体にかかる重力を加算したり減算する、重力コントロール。

 普段は両足か全身に加算して修行をしているけど、うまいこと使えば攻撃力アップにもなる便利なモノ。(前者はともかく後者は今のところ使う予定なし)



 ごっ、ごっ、ごっ、と、足音が前にもまして大きくなったのは仕方がない。


 ただいきなり足音が変わったことにハンゾーがなにか聞きたそうな視線を向けてきたけど、無視無視。





(後は足に纏ったオーラが霧散しないよう集中しておけば、修行スタイル完成、っと)















 修行も兼ねて重みを増した両足を、傷めないよう姿勢に注意して走り出して数時間。


 ようやく視界の先に出口らしきものが見えてきたことに、あちらこちらから安堵の声が聞こえてきた。



(空気中の水分が多いな・・・・・・・・・・・外は雨・・・・・・・・・・・じゃなくて、湿原か)



 うっすらと記憶に浮かび上がった漫画の内容に、まだ一次試験が終わりじゃないことに気づく。

 周りは出口だというだけで一次試験が終わりだと気を緩めた受験者がほとんどで、ハンゾーもその一人のようだ。



「ハンゾー、試験はまだ終わりじゃない。気を緩めるな」

「へ?あ、おう・・・」



 そうこう言っているうちに、長い長いトンネルの終着点へ、到着。





「ヌメーレ湿原、通称【詐欺師の塒】。二次試験会場へはここを通って行かねばなりません」



 聞こえてきた試験管の声に、あちらこちらから落胆の声が。

 私はそんな声を背に、始めて見るジャングルな光景に感動中。


 やっぱりさ、生まれた国では見ることがない光景見たら、外国にきたな〜って感じるよね。

 しかも地平線が丸いし。


 実はこっそりアニマル大好きな私としては、ここにどんな動物が生息しているのか遠くから眺めてみたいよ。

 え、近くに寄らないのかって?


 見た目可愛くて本性凶悪とかざらにあるんだから、怖くて近寄れないよ。



 ジャポンもあんなに小さな国なのに、変な生物沢山いたし。

 前世では空想上の生き物だった河童とかも普通に川にいるし、人面犬なんて絶滅危惧種に指定されてたりもする。


 キモイだけの犬なのに…。






ウソだ! そいつはウソをついている!!



「!」



 気を緩めている時に限って、なんでこうも大声で叫ぶかな・・・・。


 またドキドキし始めた心臓を服の上から押えながら振り返れば、猿の死体・・・・・・・・じゃなくて、死んだふりしている猿を引きずった、人じゃない気配のおっさんがそこに。



(・・・・・・・・・・・あー、あったあった、こんな場面漫画にあったよ、うん)



 イベントが起きてから思い出すのもなんか変な感じだ。

 なんだか目の前で大がかりな演劇でもやってるかのように、なんとなく覚えているやり取りが行われている。



(ここは現実の世界なのに、漫画と同じ流れが目の前で行われてるなんて・・・・・・・頭がおかしくなりそう)



 騒ぎ立てる自称・試験官の男。

 それを鵜呑みにする大半の受験生。

 言葉を疑う残りの受験生。


 放たれるトランプ。



「あ」



 思わずこぼれた声とほぼ同時に、自称・試験官の顔に突き刺さったトランプ。


 一目で即死と分かるほど食い込んだそれは、僅かな間をおいてオーラが消失。


 具現化しているこの危険は全力回避スペクタクルズは、掛けているだけで常に『凝』の状態という特性が備わっている。

 だから丸っと見える。

 ついでに込められたオーラの量も数値化して見える。



(た、たかが猿相手になんてオーラ込めてるんだよ・・・・・・・・・・・・・・・・・!!)



 私だけ分かる、驚愕の事実。

 威力だけを見れば十分にトランプが貫通してもおかしくないものだけど、そうならないようゴム質のオーラが丁度いい具合に威力を殺し突き刺さったそれ。

 ヒィ、と心の中でだけ悲鳴をあげ、身体はヒソカから少しでも遠ざかろうとじりじり後退り。


 そして展開の速さについていけてないハンゾーの陰に身をひそめ、ほっと一安心。




「これで決定♦ そっちが本物だね♥」




 聞こえてくる声を聞こえないふりして、血の臭いに誘き寄せられた鳥たちを観察。




(うっわー、えぐい行為してるくせに綺麗な外見の鳥だなー)

(わわ、ちっこいの可愛いー)

(お、メタボなボスっぽいやつすっげー目つきわっるー)




 自然の掟、弱肉強食。

 チキンだと自己分析できるほどチキンな私だけど、根底に何故か存在するそれ。


 弱いから死ぬ。

 死にたくないから強くなる。

 強くなれないから逃げ脚を磨く。


 すべてにおいての弱者は、死んでも仕方がない。


 自分でも最低だと思う、そんな本質。

 それが私だ。



(・・・・・・・・・・・・・絶対に、私は老衰で死んでやる)



 誰かに殺されるなんて絶対拒否。


 事故死なんてのも、一度やったからもういい。




・・・・・・・・・・・・・・あんな無様な終わり、もう二度とご免だ






 物の数分で骨となった死体を睥睨し、満腹になったのかどことなく幸せそうな目をした鳥たちに微笑する。






「おい、何ぼーっとしてんだ!試験が再開したぜ」

「………今行くよ」
















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