ぬかるんだ地面を
自由な不自由
ランド・リッシュ
で走り抜けたら、ズボンや靴が酷いことになると簡単に想像できる。
だから修業はあきらめ、まぁ二次試験会場までは動物観察でもすればいいかと念を解除した。
ただやっぱり折角揃えた
(コスプレ)
衣裳が汚れるのはいやなので、忍者の真似をして木の枝の上を移動。
筋肉がつきにくい体質のおかげで体重が軽いからできる技だね。
(それに思いのほか、視界が広くて試験官がよく見える)
霧に包まれた周囲だけど、上からだと視界が通常より広くなる。
私の身長はそこそこ高いほうだけど、数多くいる受験生はほとんどが男。
だから連中が視界の邪魔になるのだけど、木の上だったらそれがない。
ただ木と木の間がそれなりに開いているし、細い木ばかりだからしっかり飛び移る先を見極めないといけないから、それに集中しすぎて試験管を見失ったらアウト。
(状況判断と体重移動・足運びの訓練と考えればなかなかに・・・・・うん、楽しめそう)
ってなわけで、私は再び修行スタイルを取ることにしました。
湿原に生息する動物たちは凄まじくキモ可愛かったです
視線はただひたすら試験官へ向け、延々と木の枝から枝へ飛び移り追いかけること数十分。
移動に使っていた木々の枝が随分としっかり太く逞しくなり、周囲を覆っていた霧も薄くなってきた。
(湿原を抜けた?珍しい動物たちも見なくなったし、もしかしてそろそろ一次試験終わり?)
なんて思っていたら、前方に建物が見えてきた。
よく見れば建物の周囲は広場のようになっており、ならば臨時の修行タイムも終わりだな、と判断しハンゾーの側へと飛び降りた。
「うおっ! って、おまえ今までどこにいたんだよ!」
「・・・・・・・・・ずっと上にいたが?」
さすがに疲れたのか汗だくで息も切れ切れなハンゾーは、私の気配に気づかなかったようだ。
少し呆れながら返答と一緒に木を指さしたら、驚いた表情をされた。
「なんでまたそんな・・・・・・・」
「? ・・・・・
(途中から修行目的だったけど、本当の理由は)
服が汚れるのがいやだったから
(なんて言ったら呆れられるよなー、流石に)
」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、なんつーか、お前らしいっちゃぁお前らしい理由だな」
「?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・て、あ。
言うつもりなかったのに中途半端に言ってしまったし・・・・・。
え、なに?
私も疲れてるのか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・正月だからって怠けてたのがいけなかったか・・・・・・。
よし、試験中に余裕があれば積極的に修業をしていこう!
・・・・・・・・ってか、てっきり馬鹿にされるって思ってたのに、ハンゾーって存外心広いのな。
ん?でも私らしいとか言っていたな。
ってことは何か?
私はそんなくだらないことを積極的にやるお馬鹿な奴だと思われてる?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ほうほう
。
なんてやっている間に、私含む先頭集団の受検者たちは不気味な音を発する建物の前にたどりついた。
試験官が何か言っているけど、ぶっちゃけ周囲の連中の息が煩くて聞こえない。
試験官はそれがわかってて無視してるのか、それとも単純に気づいてないだけなのかそそくさと集団から離れていく。
(………一応、一次試験はもう終わりなんだよな?)
じぃっと見ていたら、そのまま木の上に移動し座り込み。
どうやらそこで二次試験を観察するようだ。
それを確認したら、今度は視線を建物へと。
(すっごい音・・・・・・・・・・・・・確かこれ、お腹の音だったっけ?)
初めて漫画を読んだとき、このシーンに衝撃を受け笑ったので覚えてる。
(事前情報がなかったら獣の咆哮って思っただろうな・・・・・)
事実、人のおなかが発すると思えないほど、やたら獣くさい。
周りの連中も警戒してるし、緊張の気配もバリバリだ。
「二次試験は猛獣でも出るのか?どう思うよ、」
「
(凶暴な豚なら確かいたけど)
この森に猛獣はいない
(はず)
」
「森にいなくてもこの建物の中にいるかもだろ?」
「気配を読んでみろ。建物の中には人間の気配しかない
(円を広げてみれば一目瞭然!・・・って、ハンゾーは念使えないし・・・・)
」
「え、うっそ!」
目を瞑り気配を探ろうと神経を凝らすハンゾーに、反則技だったワリィ、と心の中でのみ謝罪。
なんか近くにいた連中もハンゾーみたいに頑張ってるのは、もしかして私たちの会話を聞いていたのか・・・・・・?
(・・・・・・・・・なんか、いたたまれない)
ポリポリと頬をかいて視線は明後日の方向。
「〜〜〜〜さっっぱり読めねぇし!!本当に建物の中は人間だけなのか!?」
「
(うわっ、びっくりした)
・・・・・・・・間違いない。男と女、一人ずつだ。」
「なにぃ!?そこまで分かるのかおまえ!!」
「
(うぉっ!!いきなり詰め寄ってくるなよ!チキンなハートが悲鳴上げてるだろうがハゲ!とっ、とりあえず、)
・・・・・・・・・・・離れろ」
なんてやり取りしていたら、ぎぎぎっと鈍い音をたてて開く建物唯一のでかい扉。
ぴたりと動きが止まったハンゾーは、視線をそっちへ。
「だから、近いって」
べしっと軽くはたけば、いつぞやみたいに地面へ這い蹲るハンゾーくん。
いちいち反応するのも面倒だから、他の受験生に習い建物のほうへ視線を移せば……
(お、美人)
髪型と服装が独創的だけど、姉御肌な感じのキュート美人。
お友達になって一緒に騒ぎたいタイプだな、前世だと。
(でも恋愛は本気一直線っぽいから、付き合ったことがないタイプだな)
なんて思いながら見ていたら、ばちっと視線が合ってドキリ。
(恋云々ではなく、学校の先生と視線が合った時のような気まずいドキリ)
これで相手が男ならチキンな私は即愛想笑いしてそそくさと視線を外すところだけど、女性なら長年染みついた癖がオート発動。
にこっ
「!」
完全に無害な、好青年に見える爽やか頬笑み!
自分の容姿が整っていると分かり始めた幼少時、ウソくさくない笑みを鏡を見ながら何度も繰り返し身につけたこれは、現在では本命の彼氏や旦那がいようと8割
(残り2割は俺の真逆が好みの女性たちか、すべてが終わったご婦人方、もしくは乳幼児)
近くクリーンヒットする魅惑の微笑みだ!
(・・・・・・・・・・・って、彼女試験官じゃん・・・・・・!)
気づいてすぐ、倒れた
(正確には私が倒した)
ハンゾーを気遣うふりして視線をそらしたけど、その間際頬を赤らめ視線をそらす姿が見えたってことは・・・・。
(うっわー!やっちゃったし・・・・・・・・・・・)
あわあわと内心ひどく慌てた俺だけど、相手はさすが試験官を任せられるだけはある。
すぐに気を取り戻したのか、すこしぎこちなかったけど試験の説明を再開した。
「つっ、つまりあたし達2人が『おいしい』と言えれば晴れて二次試験合格!!試験はあたし達が満腹になった時点で終了よ!!」
ちょっときょどってる姿もかわいーなーと思う私は、現実逃避ですか?
「・・・・・・・・おい、お前まさかこんな所で・・・・・・・・・・・・・」
「流石に、しない
(てかもうやっちゃった・・・・)
」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
もの言いたげなハンゾーの視線にたらりと汗が頬を伝う。
「オレのメニューは豚の丸焼き!大好物!」
もう一人の大きな男の試験官の声に再びそっちへ視線を向ければ、ちらちらとこっちを窺ってる様子の彼女の姿も見えた。
「森林公園に生息する豚なら種類は自由、それじゃ二次試験スタート!」
「行くぞ、ハンゾー」
「へいへい。お前も罪作りな男だな」
「うるさい」
にやにやと嫌な笑いをしながら追走してきたハンゾーにイラッときたので、微笑みと一緒にケツを蹴っ飛ばしておいた。
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