合格者ゼロってことでキレた受験生の一人が試験官に張り飛ばされ宙を舞ったり、遥か上空の飛行船からノーロープバンジーを楽しんだご老体が現れたり、物語は目まぐるしく進んでいる現在。


 とりあえず料理審査はやり直しになったみたいで、今は受験生全員意外と大きかった飛行船で移動中。



 受験生の大多数はやり直しとなったことで緊張している様子だけど、残る少数派は、結構好き勝手やってる。


 たとえば、ようやく二次試験の全容を思い出し、茹で卵なんて作った理由を知ってすっきりした私とか。




「ハンゾー、昼食代わりに作った物の余りだが食べるか?」

「お、食べる食べる」



 流石に作り過ぎたライスサンドをハンゾーに渡せば、嬉々として受け取った。

 私は私で携帯を片手にジャポンの友人たちとメールのやり取り。



「おまえさー」

「なんだ」

「こーゆー庶民の味っての?得意だよなー」

「お堅い料理は家だけで十分だからな」

「あ、なるほどー」






げ、メールまた100通越えしてるよ・・・・・・・・









 とかなんとか気の抜けたやり取りをしている間に、目的地へと到着。

 わたわたと口に詰め込むハンゾーを横でせせら笑い、他の受験生に続いて外へと足を踏み出せば、すぐそこに断崖絶壁が。



「何がどうしたらこうもきれいに山が真っ二つになるんだろうなー」

「自然に聞け」

冷てぇ!!」



 なんてじゃれてたら、飛行船から水の入ったでかい鍋が運ばれてくるのが視界の隅に入った。

 鍋を持った人は慣れていないのか、ちゃぷちゃぷと鍋の水が波立ち僅かにこぼれている。



(鍋と水、別々に持ってくればいいのに・・・・・・・・・・・)


「お、ようやく試験再開するみたいだぜ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 ハンゾーの言葉に鍋から視線を外し、絶壁のほうへと向きなおせば・・・・・・・・・・・・



「!!」

(・・・・・)



 頬をわずかに染めすごい勢いで視線を彼方へと飛ばす、女試験官の姿がそこに。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・罪な奴だな、お前って」

「・・・・・・・・・・・よく言われる」



 ぱちりとあからさまに合った視線。

 流石にここまではっきりと態度で示されると、ハンゾーもからかう気が起きないみたいだ。



「今から実演するから見ておきなさいよ、あんたたち!」



 少しきょどった様子でそう叫んだ試験官は、ブーツを脱ぎためらうことなく崖下へとダイブ。

 そのいきなりの行動に受験生の間から大きなどよめきが起きるけど、私は事前情報があったから特に動じず。。



「さっき試験官が言ってた茹で卵って、もしかして崖に巣作ってる鳥の卵なのか?」

「おそらくは、な。」



 試験官の思い切った行動を冷静に判断するハンゾーの言葉に賛同すれば、割と近くにいたネテロ会長が声をかけてきた。



「正確には崖に巣を作っている、ではなく、崖の間に巣を作っている、じゃよ」

「崖の間、ということは強風にも耐えられる、相当丈夫な巣なんですね」

「うむ、察しがいいのぅ」



 思ったことと思いだしたことをそれとなく口にすれば、満足そうに髭を撫ぜた会長。



「ここマフタツ山に生息するはクモワシという鳥じゃ。クモワシは陸の獣から卵を守るため谷の間にえらく丈夫な糸を張っておっての、そこに卵をつるしておく習性があるのじゃ」

「つまりは崖から飛び降りた後、うまいことその糸に掴まり卵を得、無事崖をよじ登って戻って来れるかが試験の合否、と?」

「うむ。他の者も分かったかの?」



 最後は私と会長の会話を聞いていた他の受験生へ向けて。


 まったく。

 試験内容の説明にうまいこと使われてしまったよ。


 なんて僅かに肩をすくめて小さく息を吐き出してみたり。




 それから数分後、ようやく戻ってきた試験官の手には一つの卵が。



「いーい?この卵をとってくるのよ。じゃ、試験スタート!」



 その掛け声を待っていましたと言わんばかりに崖からダイブする受験生と、顔を青くし崖から離れていく受験生。

 これをはたで見ていれば集団自殺でしかないよな、なんて考えに苦笑しつつ、私も少し遅れて崖から飛び降りた。



(まぁ、これくらいだったらまだ私もどうにかなるな)



 腕力にはあまり自信ないけれど、バランス感覚と脚力には自信がある。

 あと少し反則気味な念能力を使い、うまいこと糸に着地?できれば問題なし。



 びゅうびゅうと通り過ぎていく風を肌に感じつつ、視線ははるか下方に張られた糸へ。


 姿勢は下手に崩さず自然体で。



(目測を誤ったらダサいよなぁ・・・・・・)



 じっと目を凝らし、糸と自分との距離、落下速度を計算しつつタイミングを計り・・・・・・・・・・・・



(・・・・・・・・・・今っ!)



 通り過ぎていく崖へとつま先を二度素早く打ち付け、即座に体を反転。

 狙いを定めた糸へと着地?し、しなる反動で浮き上がった卵を手に取り・・・・・・・・・・



自由な不自由ランド・リッシュ発動)



 前回使ったのとは逆に、今度は重力を減算。

 しなる糸がゴムの役割になり、私は落ちてきたスピードそのままに上へと跳ね上がる。


 が、そのままでは流石にマズイため、ある程度上がったら念を解除。


 崖にあるわずかな出っ張りを足場に、垂直に駆け上がれば地上はすぐ其処に。



自由な不自由ランド・リッシュの条件クリア後から発動までの許容時間、もー少し伸ばしておけばよかったな・・・・・・・・)










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