人は、大きく分けて二通りに分けれられると、私は考えている。
どこにいても人が集まってくるリーダータイプと、その周囲の人々。
前者はその数が圧倒的に少なく、たまに後者から『もどき』が現れるものの、その存在感は比べ物にならないほど。
動物で言うのなら、群れの長。
長は群れをまとめるだけじゃなく、群れを守るために強くなければいけない。
それは物理的な強さだけでなく、精神的に、知識的に、あらゆる方面での強さだ。
長がいなければ、群れは成り立たない。
けれど、人間は違う。
人間は進化の過程で弱者だけでも生きていけるようなっているから。
集団のリーダーを、複数で補うことができるようになってしまっているから。
故に、自然界に比べてその数は、圧倒的に少ないのが現実。
・・・・・・・・だから、まさかその存在と出会うことができるだなんて、想像してもいなかった。
それは狂信にも似た
クラピカ視点
試験会場行きの船の中から現在まで、同行を共にしている少年、ゴン。
彼は、今まで出会ったその他大勢とひとくくりにできない何かを持つように、私は感じた。
それは上に述べたような特異な気配で、もしかしたら、と期待したのはここだけの話。
ゴンならば、いずれは私が思い描く、理想のハンターになってくれるかもしれない。
人々の先頭に立ち、導き率いて進んでいくリーダーとしての素質。
・・・・・・・・・・・・・・惜しむらくは、彼がまだ年若いこと。
多感なこの時期、新たに触れる世界が彼にどう影響するのか、私には分からない。
純粋な今のままいってくれれば好ましいが、そううまくいかないのが現実。
今後どう成長するのか。
全くの赤の他人の私がどうこう言うつもりはないけれど、できれば近くで見ていきたいと、そう思った矢先のことだった。
・という存在を知ったのは。
「ヒソカもそうだが、あの男、にも極力近づかねーほうがいいぜ」
試験会場についてすぐ、近寄って来たトンパと名乗る男から受験者の説明を受けていたとき。
唐突にそう切り出してトンパの示した方向を向けば、壁に背を預けうつむいた一人の青年が。
「あの兄ちゃんがどーかしたのかよ」
遠目に見る限りでは危険人物には見えず、同じように思ったレオリオがそう聞いた。
「どうやばいのかはっきり言えねーが、ありゃあヒソカとはまた違った危険さをもってるぜ」
「・・・・・・・・・もってるぜって、はっきりしねぇな・・・・・ここにいるってことは二度目以降なんだろ?どーゆー理由で落ちてんだよ」
「あ?あ、ああ、違う違う。あいつは君たちと同じルーキーだよ」
「「は?」」
それで何故危険なのか、さっぱり分からなかった。
だけどそれについて聞こうにも、トンパはあまり話をしたがらない様子。
小さくため息をこぼしつつ、まぁいずれ分かるだろうとその時は深く考えなかった。
トンパが言うように危険な存在なら、すぐに分かるだろうと思ったからだ。
そしてそれを確認する機会は、思いのほかすぐに訪れた。
一次試験をスタートしてすぐ、偶然にもすぐ傍を走っているのを見つけたんだ。
レザーコートをなびかせ、軽い調子で走るその姿はいたって普通の受検者。
けれど、その腰に帯びた棒状の武器(以前文献で読んだ刀という武器と推測)と、服の隙間から見える鍛えぬかれた身体が只者ではないと感じさせる。
(・・・・・・・ハッタリ筋肉だったりしたら笑う・・・・・・・・・・・)
なんて苦笑を洩らしていたら、横を走っていたレオリオが急に声を荒らげた。
勿論そんな目立つことをすれば周囲から視線が集まる。
そして案の定、近くを走っていた・もこちらを振り返り、その容貌を改めて見ることになったのだが・・・・・・・・・
(・・・・これはまた、随分と・・・・・・・・・・)
整ったそれに目を見張ったのは最初の一瞬だけ。
「っ!!」
透明なレンズの向こう。
漆黒の瞳が放つ色は気高い獣のそれで、目が合ったわけでもないのに気押される気がする。
ごくり、と思わず喉が鳴った。
たとえようもない威圧感に、知らず体が震えた。
彼こそが、完成された絶対的強者だと、本能が言う。
理想とした、ヒトのトップに立つべくして生まれた存在。
(トンパが言っていた“危険”とは、このことだったのか・・・・・)
少しでも気を抜けば、屈してしまいそうになる。
自分のすべてを投げ出し、彼の足もとにひれ伏してしまいそうになる。
それほどまでに圧倒的なカリスマを、彼はさも当然と言わんばかりに持っていた。
「・・・・・・・・・・・ぁ・・・・・・・・」
私はもともと一つの中規模な集団で生まれ育った身だ。
町や街で育ったヒトと違い、移動する民族で。
それは緋の目を狙う連中から逃れるためであり、自然と仲間をまとめる者は上記でも述べたような素質を(多少なりとも)持つ者がなるようになっていた。
だから、4年前に一族が皆殺しにあい、以降一人でやってきた私は、縋れる存在・・・・・ヒトを束ねるべく生まれた存在を求めていたのかもしれない。
ほとんど無意識に上がっていた手が、縋るように彼へと伸ばされているのに気づき、慌ててもう片方の手で押しとどめた。
(・・・・・手を伸ばして、それでどうするというのだ・・・・・)
一度視線を落とし自問自答するが、やはり意識は彼へと向かったまま。
小さく、本当に小さく息を吐き顔を上げれば、先頭の方へと移動を始めた後姿が目に入った。
そして彼の横に並走しつつ何やら会話している男の存在に気づき、ふ、と湧いたのは嫉妬の念。
だが、そんな嫉妬を抱く自分に自嘲する。
(・・・・・・・・・・・知り合ってもいない私がそんな気持ちを抱くことすらおこがましい)
そう言い聞かせることで無理やり自分を納得させるも、彼の近くに在りたいという感情は消える気配がない。
じっと彼の消えた先を視線で追うも、ほかの受験生に遮られどこにいるかもわからない。
(もし、次ぎにあう機会があったら私は・・・・・・・・・・・・)
なんて今考えても詮無いこと。
今はただ試験に集中するのみと、私は走ることに集中することにした。
そしてしばらく。
一次試験も無事終わり、二次試験も色々ありやり直しのため移動してからのこと。
私は再び彼の姿を見つけることができた。
(やはり彼は人の上に立つ存在か・・・・・・・・)
近づいて話しかけようかどうか、悩んでいればいつの間にかスタートした試験。
レオリオの掛け声に反射的に動いた身体は、気づけば崖からダイブしていた。
少し慌てたのはここだけの話。
とりあえず気を取り戻して体勢を整えた私は、眼下に見えてきた糸の一本に的を絞り、数秒後どうにか糸に掴まることに成功。
試験課題である卵を無事得ることができ、さぁ崖を登ろうと頭上を見上げたその時、崖すれすれから壁を蹴り、峡谷の中央へと身を躍らせた黒い影が見えた。
驚きつつよく見てみればそれは・で、何をするのかと気になり目で追っていけば、驚くことに彼は糸の上に着地。
そのとき浮き上がった卵の一つを手際よく捕り、糸がしなる反動で上へと飛び上がった。
しかも飛び上がった後は後でうまいこと壁を蹴り、まるでそこらの坂道のように軽々と登っていくその姿はもはや、畏怖の念すら抱かせる。
周りにいた受験生もその姿を目にしたのか、呆然と見上げる者多数。
何人か、おろかにも真似しようとしたのか無様に落ちていくのを視界の端に、私は悠々と駆け上がる彼の姿を目で追った。
そして湧き上がる感情に、もはや嘘はつけなかった。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・彼の、傍に在りたい)
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