「うわっ、なにこれ」


 思わず口にした言葉は、驚きの声だった。



 とりあえず俺を船に乗せてもらえるか聞くには船長が起きない限り聞けやしないからと、それまでは前報酬的な意味でゾロの怪我の手当てをすることに。

 なので一応許可を取り包帯を解かせてもらったら・・・・・・・・・・・さっきの反応。



「良くこんな大雑把な処置で終わらせたねっ、軽く見てもこれ、1年以上は安静にしてなきゃいけない怪我だよ!」

「うっ、そ、そうなのか・・・・・」

「そうなの!ったく、とりあえず横になって!縫合しなおすから!」

「はぁっ!?ここでかよっ!!」

「一応それなりに経験あるから安心してよ。ていうか、医学を齧った事のある身として見過ごせません!」

「経験って・・・・だからお前何者だよ!」

「そこの金髪の人!麻酔打つから押さえて!」

「お、おうっ」

「無視かよ!」



 救急セットから取り出した麻酔をためらい無くぶっさしたら、緑頭のゾロはぱたん、と地面に伏っした。







騒ぐ人に麻酔を打つのは手馴れてます(不本意)









 ちゃっちゃと抜糸してから傷口を消毒しなおし、再び傷を縫うまでの所要時間はわずか数分。



「手馴れてるな、あんた・・・」

「経験あるって言ったっしょ?」

「いやいや、手際が良すぎる。本当に医者じゃないのか?」

「・・・・・・・・・手際がいいのは、ちんたら治療してたんじゃこっちの身が危なかったから。それに、こんな縫うだけだったりは、覚えれば誰にでも出来るよ。・・・・・・・最低限の医療の知識は要るけど」

「ふーん」



 なにか言いた気なサンジを尻目に、治療セットを再び鞄の中に直しつつゾロの頬を軽くたたく。



「ほら、治療は終わったよ。」

「うっ・・・・・・・・」

「特殊な麻酔薬だから感覚はすぐに戻るはず。ただ、痛みも戻るからその辺はあしからず」

「げっ、本当にやってやがる・・・・・・・・」



 ばっと飛び起きたゾロは一度自分の傷を確認し、眉間にしわを寄せつつ嫌そうにそう言った。



「とりあえず傷は閉じときゃ良いだろう、なんてことは今後考えないように。下手したらそこから膿んで腐ることもあるんだから、気をつけてよ?」

「う゛・・・気をつける・・・・・・・・・・」

「はいそれじゃ、包帯巻くからばんざーい」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」



 なんかゾロとサンジが嫌な顔してこっち見つめてきた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・なに」

「いや・・・・・・」

「べつに・・・・・・・・・・」



 気になって聞いてみれば、今度は二人して視線があらぬほうへ。

 ・・・・・・・・・・・・なんだってんだ。



「・・・・・・・・・・・・・傷、晒したままがいいわけ?」

「いや、あー、自分で出来る」

「縫った傷が開くよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お願いします」

「おう」



 大人しく胡坐をかいたゾロの後ろに回り、鞄から取り出した包帯を手際よく、素早く巻いていく。


(・・・・・・・・・・・・・・・背中には傷一つ無いんだな・・・・・・・・変なの)


 肩までは大小さまざまな傷があるのに、背中だけはまっさらと傷一つ無い。


(ていうか・・・・・・・・・・この筋肉のつき方・・・・・・随分鍛錬を積んでるな、この人)


 自分を甘やかさず、鍛錬に鍛錬を重ねた肉体。

 ・・・・・・・・・・忍としてはつきすぎた筋肉が重く素早さに欠けるだろうけど・・・・・・・・、そこを補えればたぶん、上忍並みの腕はありそうだ。


 心の中でゾロに要注意人物、の札を貼り付け、表では身体への負担にならないよう、けれど緩過ぎないよう包帯を締めた。



「ぐっ」

「はい終わり。」


「ほんっと、手際良いなあんた・・・・・・・・って、そーいやあんた名前は?」

だ」

な、おれはサンジだ。で、そっちのマリモが・・・・・」

「んだとクソコック・・・・・・・・・」

「ぁあ・・・・・・・?」

「・・・・・・・・ゾロ、だろ。んでそっちの船長さんがルフィ。」

「・・・・・っと、知ってたのか」

「さっき俺を置いて話してるときに出てたからね、覚えた」

「ほぅ・・・・・・・」



 あ、またゾロが警戒する目だ。

 さっきも経験がどうのって言ったとたん、ううん、最初彼らと接触した瞬間から、ずっと。

 相当警戒心が強いようだけど、ルフィやサンジに対する態度からするに一度懐に入ってしまえば・・・・・・・・・・。


 いや、この手の人物は一度懐に入っても警戒するだろうな。

 おそらくは本能で動くんだろう。

 自分が心から信じる、そう思えない限りずっと、相手を疑い続ける。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・厄介な。


 少しでもこちらが態度を隠すようなそぶりを見せれば、切りかかられはしまいも近いとことになりそう。

 つまりこの場合俺のとる行動は、嘘を言わず、けれど本心も晒さないこと。


(どうせ彼らとは次の島へ行くまで。・・・・・・まぁ、それ以前に乗船を許可してもらわないとどうもこうも無いけど・・・・・・ね)



「とりあえず、出来るだけ安静にしておくこと。傷が悪化するような激しい運動・行動はなるべく控えたほうが、傷の治りは早いよ。」

「・・・・・・・・・・・・ああ」

「風呂とかは傷の上から軽くタオルで拭く程度、あと傷による発熱・・・・・・・って、それに関してはたぶん大丈夫そうだからいいか」

「んなヤワな身体してねぇからな」

「・・・・・・・・・・・・(ヤワとかヤワじゃないとかの話じゃないんだけどね、発熱は・・・・)」

「イヤイヤ、ヤワとかヤワじゃないとかの話じゃねーだろっ!」

「そうそう・・・・・・・・・・って、お前ウソップ!」

「生きてたのかお前!!」



 俺の内心での突っ込みと、少し空けて放たれた突込みがまったく同じでこっそり笑ってみたり。


 実はゾロに包帯を巻いてる最中に来てたんだけど、特に害が無いみたいだし放っておいたんだ。

 ナミって人が殺したとか言ってたのは確かに覚えてるけど、言動のあちこちから違和感があったし。

 それに忍者のさがで死体を見ない限り、もしくは確実に死んだと確信できる証拠が提示されないと他人の言葉は信じないことにしてるんだ、俺。

 そしたら案の定。


 ・・・・・・・・・・・ていうか気付かなかったのか。



「いつからそこに居たんだよ・・・・・・」

「さっきからそこに居たけど?」

「さっきからそこにいたぜ!」


「「なら言えよっ!!」」



 おお、息ぴったり。

 ゾロとサンジ、ダブルの突っ込みに笑って返すウソップ。

 俺は俺で苦笑いだ。


「・・・・・・・・・・ん?あんたは?」

だ。たまたま俺の乗った船がこの近くに漂着してな、出来ればあんた達の船に乗せてもらえないか交渉しようと船長さんが起きるのを待ってるんだ」

「へー、あ、おれはウソップだ、よろしく」

「よろしくー」


「「何のんきに挨拶してんだ・・・・・・」」



 本当、息ぴったり。















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